濡れた髪をそっと指で退けて、彼の白い頬を見つめる。道路を歩いてる途中トンネルを抜けて出た場所は森だった。名前はなんていったかな、そう考えてるとNが森のポケモンを何匹か連れて歩いていた。だから声をかけたら、突然雨が降ってきて。ポケモンはどこかに消えてしまって俺とNだけが残った。―降って来た雨は酷く止みそうもない。森の大きな木の下でなんとか雨宿りしてみるけど、どうにかして屋内に避難しなければ。そう思うけれど彼は人ごみを嫌うし、何より人の中で過ごすのが苦手だ。ならば少し寒くても此処に居て、彼を安心させてあげたい。ぶるりと震えた俺に「気にせず行っていいよ」と答える彼だけど、その瞳は濡れて寂しげに此方を見てる。そんな目を見た俺が素直にうなずくとでも思ってるのか。行かない、短く言葉を返せばそう、と静かに呟かれる。雨はまだ、止まない。



「…ブラック」

「……ん、?」

「…………、……やっぱり、いいよ」

「―何、気になる。…言って、よ。…何?」

「、…少し、抱きしめさせて」

「…ん」



伸ばされた手に大人しく掴まり、体を寄せられて抱きしめられる。首元にNの吐息が掛かってくすぐったいけど構わない。彼がこれで安心できるなら、寂しくないならそれでいい。俺はこの人が安心できるならそれで十分だ。



「…寒くない?」

「平気、Nこそ、大丈夫?」

「平気だよ…君が居るから」

「…うん」



首元に顔をうずめてNは黙る。そういえば、時々こうして突然雨が降ることがあるけど(しかも結構酷い。前はあるポケモンのせいだった、けど俺が捕まえてしまった)彼は一人でどうしていたんだろう。小さいころ俺は雨が降るとホワイトと手をつないで、雨合羽を着てばしゃばしゃ水溜りで遊んでいた。そんな俺たちを母は困った顔をして傘をさして見つめていて、ずぶぬれの俺たちに困り果てていた。雨は嫌いじゃない、楽しくて幸せな思い出を振り返れるから。でもNはどうだろう、いつも一人でこうして、寂しそうにしていたんだろうか。



「N、……N」

「………、…ん、なんだい、ブラック」

「…雨の日、寂しくなったらいつでも、来ると、いいよ」

「……うん」



そしたら俺が貴方を抱きしめてあげる。そしたら貴方は、雨の日に寂しくなくてすむし、雨の日は俺を思い出してくれるだろう?悲しい色をした人、俺がそばに居ることで貴方の幸せの足しになるなら、何時だって呼んでくれていい。俺の悲しみを埋め尽くしてくれるように、俺もそうしたいんだから。Nの背中に手を回して軽く背中をぽんぽんと撫でてやれば、Nは「小さい子供みたい」と顔をあげて耳元で小さく笑う。だって小さい子供みたい、そう返すとNは「そうかもね」といって俺の唇をついばむよう己の唇で合わせてくる。まるで小さく小さく食べるように、俺をついばむN。目を閉じてそれを受けながらさっきのように背中を撫でてやれば、俺はNのぬくもりの中で雨の日が幸福になることを祈った。



貴方の幸せのピースに私がありますように

(どうしようもないんだ、おれもこのひとも。だから、このひとのしあわせをどうか、)



10.10.07


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -