ブラックに旅はどうかと聞かれた。別に普通。何の感想も抱かない、僕の存在意義を作る過程に過ぎないのだから。そういったら彼は目を伏せて、少し悲しそうに笑った。じゃあ、今まで僕たちが過ごした時間も、何の感想も抱けない、要らなかったもの?と。―その言葉に僕は固まる。別にそんなつもりは無い、あの頃はとても楽しかったし、かけがえの無い思い出だ。ただ僕は存在意義を作りたくて仕方が無いだけであり、今のたびはそれを作るためのいわば作業工程だ。あの頃があってこそ僕は人とのかかわりが思ったより楽しい事を知ったし。あれがあってこそ僕は一人で生きていくのに、理由が欲しくなっただけだ。だから違う、というとチェレンのことがわからないと、ブラックの瞳が揺れて苦い顔をされる。何故?僕の考えが分からないなんて、君はずっと僕と一緒に居ただろう?そういうと彼はそうだけど、分からない。もうチェレンは、俺の手を、随分前に―放してる。その言葉に僕は重たい石を呑まされたような気分になる。そんなことは、ない。そう言いたいのに、気付けばいつも彼を引っ張っていたその手は、今は強く握り締めるだけで、彼の手を取ろうとはしていなかった。気付いた瞬間僕は自分の馬鹿さ加減に呆れた。



「いつになったら、俺の手を引っ張って、一緒に歩いてくれるの…?」

「―ッ…ご、めん…ブラック…」



涙が頬を伝う。ブラックの目元の涙を拭えば、左手で彼の手を握り締め、引いて抱きしめる。ごめん、ずっと一人にしていて。ずっと無理をさせていて。僕の存在意義は、君を引っ張っていくことだったのに。人は一人で生きていく、それを理解した瞬間僕は君の手を離し、勝利に執着し頂点に立つことにより一人で生きていく中で自分が生きる意味を見出そうとした。僕は君のために、居ると言うのに。溢れる涙を唇で拭い、ごめん、ともう一度謝る。肩に顔をうずめたブラックの細さに、僕はきつく彼の手を握り締め、身体ごと抱きしめてもう離さないことを誓った。



僕の存在理由は貴方です

(強い君の弱さを守るのが、僕の役目だ)



1010.03


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