すっかり寒くなってきて秋の色に染まるエンジュシティの美しさに人々は見惚れていく頃。寒くて上着のチャックを完全に上まで閉めて両手をポケットに突っ込み、にくまんが美味しくなる季節はもうすぐか―と枯葉で埋もれた道をざくざく歩いていく。秋つったら秋刀魚とか美味いんだけど、今年はなんだっけ、全然獲れなくて高いんだっけ?あれ、前の話だったかな。秋になる頃テレビでそんなのがあった気するけど、どうなんだろ。別にどうでもいいことではあるけれど秋に一度は食べたくなる旬のものだから、少しだけ気になる。あと栗ご飯とかも美味いよなー。久々に家に帰って母さんの作ったものが食べたいかもしれない。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋。よく人は言ったものだが俺は断然食欲の秋だったりする。スポーツなんて旅してりゃ毎日歩くから無駄に足腰鍛えられるし読書なんて文字を追いかけるだけで頭が痛くなる。芸術の才能なんて俺には残念なことに一欠けらもないわけで、事実上秋といえば食べ物しか残らなかったりする。それにしても秋だから綺麗だろうなとおもってこっちに来て見たのはいいけれど、これまた見事な紅葉だこと。スズの塔とかあるとこなんかものすごいことになってそうだ。特別うんたら要らないから観光地として売れば多少なりとも設けられるだろうに、御堅いのはこういうとき残念だ。所詮伝説云々古云々より、世の中金周りのが大事なんだから、多少なりともそっちに目を向ければいいはずだ。そうすれば古い昔からのものを保管するのにも必要な経費が出てくるわけだし、有効活用しないというのは守るべきものを捨てるも同然だ。―まあ俺はそんなのどうでもいいわけで。バクフーンに紅葉を見せて綺麗だろう?と多少目の保養をさせれば、無駄なことを考えすぎたと歩き出した己の足を止めることなくさくさく進ませていく。別にどっか行きたいわけじゃないけど、俺は考え込みより食べ物のほうが好きなわけで。つまりは腹が減ったんですよすみませんね。
「マツバさーん、いたいけな子供に秋の恵みをください」
「いきなりだね、ゴールド君」
「いきなりです。まだハロウィンにゃ早いけどあんなかんじの物取り…じゃなかったオネダリっスよ」
「生憎僕の家には秋刀魚も栗もないよ」
「え、うっそ」
「旬のものを届けてくれる人が何人か居るけど、ほら、高いじゃないか。ああ、スーパーで買ってきた甘栗でいいなら食べるかい?これは安いよ、あんまり美味しくはないけれど」
「…要らない。甘栗なら母さんから仕送りがてら送られてきたし」
「残念。じゃ、サツマイモは?焼き芋にしようと思うんだけど」
「スイートポテトとか希望したいんですけど、作れないですよね?」
「僕はそういうのはあまり好きじゃないからね」
焼き芋が嫌ならそのまま紅葉の中に埋もれてるといいかもしれないね。にっこり笑って歩いていくマツバさんの服の裾を慌てて引っ張り、ストップ!と声を大きくすればごちそうになります、と頭を下げる。素直なのが子供のいいところだよ、と頭を撫でられてなんとなくムカっとするけど食べさせてもらえるんだから文句は言えない。どうせただで飯に有りつけるとは思ってないし、何か一つ一宿一飯の恩義みたいなものでもしようとは思う。じゃないと後々どうなるか、怖くて考えたくもない。
「ところで焼き芋はまさか落ち葉を集めて、のあんなじゃないっすよね?」
「ダメかい?」
「いや…別にいースけど…あー、暫く待たないといけないか」
「頂き物の和菓子があるからそれを食べて待つといいんじゃないかな」
「マジ?うわ、ありがとーマツバさん。ちょーいい人、わー神様だー」
「生憎僕は神様なんて信じてないからそういわれるとちょっといやだな」
「…普通神様とかいわれたらいやそれほどでも、とかなるでしょ。捻くれ過ぎ」
「君こそ捻くれの小生意気小僧と評判だよ」
「それはどうも」
古い家の門を開けて中へ入れば、俺はふと首をかしげ尋ねる。
「ところでその評判って誰の評価っスか?」
「うーん、そうだね。僕から争いの種を蒔きたくはないけど…そうだな、匿名の君の嫌いな人とでもいって置こうか」
「つまりそれはあの緑野郎ですか。そうですか。シロガネ山に埋めてやるかあんにゃろ」
「あ、いい評価だと“その生意気さがつぶれる顔って言うのはすごくいいだろうね”っていってた人もいるよ」
「それは聞きたくない。あれでしょう、紅い髪の毛でチートの」
「才能あるね、ためしに弟子にでもなる?」
「お断りします」
嫌いな人間は何人も居るけど、嫌いじゃないけど嫌なのはこの人だ。微笑みの裏側に潜むものを考えて俺は引きつった笑いを浮かべた。
笑うその人の裏側に恐怖を抱く
(落ち葉はもちろんゴールド君が集めてね)(え、ええええええ?)(はい、箒。今日は風が冷たいみたいだからまあがんばってね)(お、に…鬼だ!!)
10.10.18