(旅に出る前の話と今の話。黒白父捏造。風邪っぴきの双子さん)



幼い頃から父親という存在は遠かった。仕事で常に家に居ることはなく、家に居たとしても子供よりも苦労を掛けてる妻を甘やかしていたし、子供には質のいいものを与えておくような人だった。だから構ってもらった記憶なんて断片的にしかなくて、母から言えば「あの人は小さいときから二人にべた惚れよ」なんてものらしいが、当人からすれば愛情をよく見た記憶なんてない。それでも愛されているのだとは思うし、愛されていなければ風邪を引いて肺炎起こしかけて39度近い熱で苦しんだとき、仕事ほっぽり出して遠方から態々二日も時間掛けて必死にこっちに戻ってきて、こっ酷く会社から連絡受けて叱られるなんてこともないだろう。愛されていないとは思わないし、けれど自分たちよりも母を愛しているのだろうとは思うから、ようは若干の妬みがあったのかもしれない。子供なんてそんなものだ。親の愛情は自分たちのものだと錯覚してるし、愛した人を優先させることが悪くないとは理解できない。大きくなってきた今となれば、理解できるものだけれど。小さい子供は愛されるのが全て、愛されるのが当然だと思い込みやすいものだから。



「…なんか昔のこと思い出してきたら寂しくなってきた」

「は、?え、ちょ、大丈夫?熱、あがった?」

「わかんない。…たまごがゆまだ?」

「ま、だ。てか私も風邪引いてるし、必死なんだから、卵なくてもいいでしょ。お粥で十分」

「ホワイトってさぁ…俺に甘くて、べたべたのくせに、こういうとき、じぶんゆうせんでひどいよね」

「ブラックだって私にこんなことさせて、それでよく私の双子ね。…げほっ。……はぁ、あー、まって。もう少し。あと5分」

「ん…」



咳き込みながらテーブルの上のペットボトルに手を伸ばしてそれを落としたホワイトに、「ぐらぐらじゃん」なんて言って起き上がれば額からぬるくなったタオルがぼとりと落ちてくる。お母さん、風邪っぴきのふたごの看病早く来てください。



熱に魘されて求めるは

(う、あ。熱あがった)(え、何度?)(38.7度)(ホワイト今すぐ寝ろ薬飲め)(ブラックこそ38.8度もあってなんでそんな元気なのよ)(元気じゃない。ぎりぎり。おかゆがとぐろ巻いてぐるぐるしてるようにみえる)(もーおかあさんまだ?どこまで買い物いったの!)



10.10.19


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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