私にとって意味のない色の緑視点)



アイツの妹(みたいな存在)がぶち切れた。折角あいつが最後に残した手鏡を素手で割り、手を血塗れにして静かに泣いた。俺と同じように最後にあいつに会ったジョウトのジムリーダーの一人である千里眼のこの男は、目を細め息を呑めば手早く知り合いに連絡をしたらしい。しばらくしてやってきたのは、派手なピンクの頭のコガネ弁の女。ああ、こいつもたしかジムリーダーだったはずだ。



「コトネちゃん!?なんやのその手!」

「……アカネ、さん」

「あああかんわ、ぱっくり割れてるわぁ…あんたらぽけっとしてる暇あったんやったらなんで早ぅ手当てしてやらんの?意味分からんわ、ほら、コトネちゃん、破片は突き刺さってない見たいやけど、念のため病院行くで。こりゃ縫ってもらわなアカンし。片付けくらいしといてな、まったくうちがなんでこっちまで呼ばれたんやろ思ったらこないなことになってんとは…あんた等、ええ加減“子供”傷つけるん、やめたらどうや」



じろりとアカネという女がにらみ付けて来る。タオルで取り合えず止血したらしいコトネの手は白く、本人の目は暗く淀みどうでもいいとされるがままだ。マツバがわかってるよと小さく呟き手鏡を片付け始めれば二人の少女は歩き出し病院へ向かった。残ったのは残念な男二人と、血塗れの割れた手鏡だけ。



「何人位、アイツが消えたこと知ってる?」

「…さぁ、僕と…あと2・3人くらい、かな。多分“大人”は知ってるはずだろうけど、知らないフリをしてるだろうから、本当は結構な数の人間が知ってるはずだ。もっとも一般には知られてないことだし、彼の親御さんとコトネちゃん、あとは何人かのジムリーダーと、チャンピオンとその下の四天王くらいだ」

「…昔の話は?」

「ゴールド君が消えた話を知る人間よりぐっと減るよ。何せ彼の存在は伝説と化されてるからね」

「……そうか」



袋に手鏡をつめたマツバから視線を外せば黙る。テーブルの上の赤い血だけが、白いテーブルクロスを汚していく。白い存在を汚していくそれは、まるで自分たちのようだとマツバは皮肉に笑う。白い存在。確かにそうかもしれない。結局子供一人も救えない俺たちは、純粋すぎたそれを汚す方法しか、持っていないのだから。俺は己の手をじっと見つめ、強く力を込めて握り締めた。



救えない手ならば要らないというのに

(いっそ誰かこの手を圧し折ってくれたらいいのに)



10.10.16


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