(パロ。主治医のチェレンと幼馴染ベルと壊れた白の歪んだお話。中世っぽい)(残虐性要注意、病み濃度高め)



紅茶を啜る少女の長い髪が揺る。水色の白い光を帯びた瞳は伏せられ彼女の淡い桃の唇がふいにティーカップから外れると、音を紡いだ。「ねえ、せんせい。ブラックは、どこ?」その言葉に僕は目を細めると、静かに息を吐き出し慣れた言葉を口にする。「彼は、遠くの屋敷で元気にしていますよ」「どうして一緒に居られないの、寂しい、ブラックを今すぐ返して」「それは、できません」「どうして?ああ、ブラックの首を絞めたことを怒ってるのね、ごめんなさいせんせい。もうそんなことしないから大丈夫、イライラしたら、あの人を探して今度は頭を灰皿で殴ってあげるから」「貴方のそういうところが問題なんですよ。彼も此処には居ません、ブラックと共に、暮らしています。そのことを貴方も承諾してこうして暮らしているんでしょう?忘れましたか」「知らない、知らないわ。今すぐあの男を呼びなさい、私のブラックに手をかけるなんて、死罪に値するわ!早く、早く呼びなさいよ!あの男の頭を陥没させて血まみれにしてやらないと!」興奮してきた彼女の手元がかたかた揺れてティーカップがかしゃんと落ちた。割れたカップからぱしゃんと紅茶が零れて、彼女ははっとしたかのように目を覚まし焦った顔から一転、穏やかな顔でテーブルの上に転がったカップに右手を伸ばした。



「やだ、割れちゃった。お気に入りだったのに、このカップ。ベルに新しいカップを買ってもらわなきゃ」

「ホワイト、触ってはいけませんよ。貴方のその白い手に怪我のひとつでもあれば、ベルが怒ります」

「せんせい、ごめんなさい。怒鳴ったりして。ブラックはNと幸せなのよね、そう、それでいいわ。あたしのとこになんていたら、二人とも幸せになれないもの」



ふわりとしたドレスの裾をたくし上げるとホワイトは立ち上がり、ゆるく長いウェーブを描く髪の毛を揺らして「自室で薬を飲んで寝ます」と頭を下げて歩き出す。僕は彼女の背を見つめると、息を吐き出しティーカップを片付け始める。彼女にとって僕は彼女の主治医であり、信頼できる「医者」で唯一の友人の一人だ。そう、僕は彼女の“先生”。主治医だから、彼女を宥めて嗜め、冷静な思考を取り戻させるのが、仕事。



「チェレン、ホワイトは治らないのかな」

「―来てたのか、ベル」

「うん。ホワイトにアップルパイ作って持ってきたんだけど…今はやめたほうがよさそうだね」

「ああ…。…多分、ホワイトはもう治らないと思う。穏やかさをすぐに取り戻すけど、変わらず壊れたままだからね」

「いつになったら、チェレンのこと先生ってよばないで、名前でまた呼んでくれるんだろうね?」

「…さあ…。僕は、彼女が忘れないでくれているなら、それでいいよ…先生のままでも、…構わない」

「…そう。でも、いつまでそのうそを続けるの?」



テーブルの上にアップルパイの入った箱を置いたベルがティーカップの破片を片付け、布巾でテーブルの上を拭く。僕はそれを見つめれば背中を向けてキッチンへ歩き出す。



「チェレン、」

「忘れてしまっていて、壊れている彼女に真実を告げたら、彼女は今度こそ狂った世界に閉じ込められてしまう。一人きりになってしまうんだよ」

「……ばかだね、チェレンは。一生そうしていくつもり?」

「僕はホワイトのためなら、なんでもするさ」

「………そう。なら同じだね、私だってホワイトのために、なんでもするよ」



だから私はホワイトが狂った原因のあの人をああしたんだから。にっこり笑っているだろうベルに僕は顔を歪ませ、「紅茶でも出すよ」と足早に部屋を出て行く。―――歪んで狂った屋敷のやり取りはいつ終わるんだろうか。



真実の上に嘘のトッピングをしましょう

(お屋敷の中にはけして入ってはいけません、嘘に塗れた人間しか居ませんから)



10.10.14


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