一番憎んでる人間を一人だけ、突き落とすことができるとしたら君はどうする?その言葉に俺は固まる。ボクは真っ先に、ある人を突き落とすよ。背後から右側を覗き込むように顔を寄せられて俺は振り払い距離を置く。誰を突き落とすつもり?尋ねればさあ、誰だろうねとはぐらかされる。この人の考えは相変わらず分からない。分からないけれど俺はこの人を拒めない。何だよ、意味わかんない。ぼそりと呟けば、君の片割れじゃないから安心してよと笑われた。別にそんなことを気にしたわけじゃない。ただ、そうだ。俺が突き落とすとしたら、



「…俺自身だ」

「―何故?」

「            」



駆け出して階段を数歩段飛ばしで下りる。ああ、折角買い物に来たってのに、運が悪い。まさか突然あの人が現れて俺にあんな質問をしてくるとは。最近の俺は、ついてない。自分がどうしようもないと再確認するばかりで、むずがゆくて仕方がないから。あの人にあったのが、そもそも終わりだったのかもしれない。でもその出会いを無しにはできないし、いまさら彼を拒めるわけでもない。結局俺は意味の分からない言葉を投げかけてくるあの人に、ただあいまいに濁すしか術はないのだ。



「おれが、おれを突き落としたいのは…。あいまいなじぶんを、      」



ささやくように呟いた声は誰にも届かない。ふいにさっきもみた緑の髪が、視界の端を横切って揺れた気がした。俺はそれをみて、また逃げるように走り出す。ちらちら、ちらちら。緑が追いかけてくる。ああ今は変わるだろう、俺が突き落としたい相手が変わるだろう。



突き落としたいのは、

(俺か、N。そのどちらかだ)



10.10.12


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