確認作業に入ります系列。松葉さんと金)



金色の瞳の少年は淡々とお茶を啜る。時折出された和菓子に手をつけるけど、喋るわけでもなくただ淡々とその作業をしていく。別に沈黙が嫌なわけではないけれど、基本的には活発的たる少年がただ黙り淡々と同じ動作を繰り返すのはあまり好ましくない。だからといって僕と彼に話題があるわけでもないのだけど。それにそもそも僕と彼は特別親しいわけでもない。彼は僕のジムにやってきたトレーナーで、僕に勝ち、次々ほかのジムでも勝利を手にしチャンピオンにもなった。もっともそれを返上し彼方此方ぶらぶらしたらしく、カントー地方でもジムにチャレンジして見事全てに勝ってしまった。それを知ったとき、ああやっぱりとも思ったけれど同時に少し不安になった。子供が、また一つ壊れるのじゃないかと。彼は一見その様子はない。強い心と強いポケモン、そして絆を持ち、ただ淡々とまっすぐ歩いていく。…そうだ、なぜか彼が来たときからずっと違和感を感じていた。彼は全ての動作が、”作業”であり、行動ではないのだ。



「―君は、なぜ僕のところに来たんだい?」

「……分かるでしょう、貴方なら」



金色の瞳がすっと横へ視線を向けて、僕を見つめる。美しいその眼は濁り、暗い色を湛えている。彼はどうやら、美しいだけの世界ではないことを、完全に知ってしまったようだ。また一つ、子供が壊れるか。知らないうちにため息が出たらしく、僕は苦笑いし手元へ視線を向ける。



「君は、一人の少年を探しに行くんだね」

「そのつもりです。この後、その人の"幼馴染”のとこ行って来ますよ。一応報告しておこうかな、と」

「その前に僕のところ、か。それは、あれかな。彼が君の予想の場所にいるか、教えてほしくて?」

「別にそういうつもりはないですよ。俺は自分の調べて手に入れた情報に自信があるし、そもそも居なくても構わない。ただの確認作業が少し延びるだけ、別に何も支障はないですから」

「確認作業…それはまた、…随分なものだね」

「そうですか?俺みたいな人がどうなってるか、俺がそうなるかもしれないなら確認してくることのどこに悲しみがあります?」



和菓子でいささか汚れた指先をティッシュで拭った彼はお茶をごくりと飲み乾すと、ごちそうさまでしたと挨拶する。僕はそれに返事をせず彼が荷物に手をかけたとき、尋ねる。



「君は分からないのかい?大人が、確認だの作業だの子供から言われて、どう思うか」

「分かりませんよ。俺をこうしたのは、少なくとも貴方にも原因があるんだから」

「……それを言われると、痛いよ」

「痛いのは俺を思ってじゃないでしょ、自分が少なからず選ばれなかったこと、頑張ったのに踏みにじられた自分のこと、そして子供によって開放されたこと、その子供が"哀れ”にもさび付いてるからでしょう?アンタ達はそうだ、自分が結局可愛くてかわいそうで、痛いんだろ」

「…ゴールド君、君は……世界に、何を見出した…?」

「別に何も。見えたのは、ただの汚さと退屈。あとは、失ったものだけ」



あんなに輝いていたものが薄っぺらいとはね。荷物を手にし立ち上がり玄関へ向かう少年はちらりと此方を見ると、くくっとのどを鳴らして笑う。それは10代の幼い少年が浮かべるような笑いでは、なかった。



「絶望を知ってるマツバさんなら、分かると思うけど?」



それじゃ、お邪魔しました。にっこり笑い僕の家を出て行くゴールド君。僕は一歩も動けず、ただ彼が飲み干した湯飲みを見つめるしかなかった。



言い残された言葉

(絶望した者同士なんだから、理解できるはずだって?―理解できないから苦しむんだ)



10.10.07



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