(視点ポカブから最終進化したカークス)



俺を手にした彼は最初、ただじっと見つめてきてはふいに視線を逸らし、また見つめてきては少し頼りなさげにボールを撫でるような人だった。勝負の時はただ静かに考えて、指示をして。そして勝敗が決定したら、お疲れ様と小さく呟き撫でてくれた。傷を負えば癒すために薬やきのみを与えてくれて、瀕死の状態になれば急ぎ足でポケセンと略し呼ばれるセンターに連れて行ってくれて、ごめんねと目を伏せて謝っていた。今では精神的にどう成長したのか―それは彼ではないし、そもそも此方は彼に寄り添うポケモンという存在だから分からないが、冷静を保ちながら必死でどう動けばいいか考え、指示をし、全てが終われば有り難うと言ってくれる様になった。迷いがあって頼りなかった彼はボールを放り投げる瞬間ただまっすぐ前を見るようになったし、疲れて休むときボールを覗き込み、明日もどうか一緒に戦って着いて来てとじっと見るようになった。此方がどう思っているか、自分がトレーナーでいいのかと考え、言葉を出すことなく全て視線と少しの仕草で伝えていた弱い彼はもう居ない。その分彼は本気で信じられているだろう理想を語られ、それがいかに難しく、また何が真実であり追い求めるべき理想なのか考えるようになった。それでももう動かず諦めることも信じることもその場で行っていた彼は居ない。動き見て考え、その上で諦め信じただ前を向いて歩いていく。



「立派になったんだ、俺達の主人は」



新入りが入ると、主人は必ず数日は手元に置く。パソコンのポケモン収納ボックスに入れっぱなしにはしない。定期的に手持ちを入れ替え、一緒に過ごす。だから俺はずっと一緒という先輩ということで、彼がどんな風に生きているかを全て最初から語る。鬱陶しく思っていた輩も居たらしいが、彼の腰元で揺れて彼がどうしようもない思いで顔を歪める様も、安心して微笑む姿も見ていくから、理解し始めた。だから俺はいつまでだってもやめないだろう、俺達の主人がどんな子なのかを。



「ぶらっくは、わたしのこともあいしてくれる?」



彼の図鑑に表示される説明には、ゴミとあった彼女。同じ種族の仲間がプラズマ団の手元にいて、嘆いていた彼女。人からはあまり好かれないだろう見た目、吐き出される息は人を苦しめることだってある。人間で言う「捕獲」をされたとき、彼女は泣いて泣いて泣いて過ごした。いたぶられるの、なぐられるの、いじめられるの。怖い、悲しい、そのために私達は生きているんじゃないと泣いた彼女に、俺は時間をかけて彼の話をした。そして彼女が出した言葉は、



「…彼はどんなポケモンだって、柔らかく受け入れてくれる」



愛するなんて容易いことではないし、とても重たくて難しい。だから安易にそんなことはいえない。けれど確実に、いえること。彼はどんな子たちもその手で受け入れて、ただ一緒に居てくれる。だからそれを伝えた。難しい性格の彼女はちょっと悩んだらしいが、ならそれでいいと笑い、うとうととし森の木の下で少し休憩する俺達の主人をボール越しに見上げた。彼女は少しだけ主人の昔の目に似ていた。怖い、不安、どうしたらいい?迷いばかりの目、いつから変わったのかなんてもう遠いことだけど。



「……ん………、…あ…や、ば…ホワイトに、呼ばれてた…っけ」



目元を擦り立ち上がる主人にくすくす彼女は笑う。俺も苦笑いすれば、隣のボールからコツコツと叩く音が聞えた。最近再び進化したケンホロウだ。



「…アイオロス…ごめん…ヒウンシティまで飛んで。ホワイトが、ポケモンマッサージの人のとこで待ってるって言ってた…から」



かち、とボールの開閉スイッチが開く音がしてアイオロスという名を持つ彼は高らかに一度鳴くと背にブラックを乗せた。彼女と会うのは数日ぶりだ。ホワイトという名の双子の彼女は、時間を守らないことをよく思わない。あまり猶予はない、―さて今日の話はこれくらいにしよう。そう告げると彼女は頷き、からんとボールごと揺れた。



今の彼、昔の彼

(ブラック!5分の遅刻。ミックスオレおごって)(…トレーナーと勝負しまくって、今金沢山じゃ)(お ご っ て ?)(…はい)



10.09.23


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