※ED前後のネタバレ含みます。また一部暴力表現有り。

(N黒前提の白さんぶち切れ話でゲーチスぶん殴り要素有り。お別れ話、だけどスタートのつもりでもあります)



―ホワイトは目の前の城を見て顔を歪めた。Nに呼ばれ、四天王を倒しチャンピオンの待つ場所へやってきた彼女の目に飛び込んだのは、崩壊した建物とうなだれるチャンピオン、そして彼の側に居る幼馴染のチェレン。一体、何があったの。そう尋ねたホワイトの出現にチェレンは一瞬驚くも、冷静に眼鏡をかけなおし伝える。



「Nはチャンピオンを倒し、ブラックに自分のもとへ来るよう指示して…プラズマ団のアジト、らしいこの周りを取り囲む城の中へ入っていった」

「…ブラックは、それじゃあ、行ったのね?」



ホワイトの問いかけに頷くチェレン。ホワイトはそう、と呟くとじっと城を見つめる。顔はいまだ歪んだまま、悲しげにその瞳に城を映している。チェレンはホワイトがNに呼ばれたと分かり、ただ黙るしかない。ホワイトは腰元で激しく揺れるモンスターボールに視線を落とせば、意を決したように唇をきゅっと一文字に結び、チェレンを見つめる。



「…行くわ、」

「…そう。じゃあ、これ持っていきなよ」



かいふくのくすり、それから―レモン味の飴玉。何これ、ホワイトがきょとんと顔を見れば、「もし、泣きそうになったらコレ舐めて我慢したら」とチェレンは視線を外し呟いた。―チェレンはホワイトが泣く事を望んではいない。それは、彼女の手持ちたるポケモンも同じようだ。再び激しく揺れたボールに、受け取ればいいのね、とふっと笑ったホワイトは有り難うとそれを受け取りポケットに入れる。―さらさらと長いポニーテールを揺らし、ホワイトは城へ続く長い階段を上っていった。







―ジムリーダーたちが七賢人の足止めをしてくれたお陰でブラックは階段を駆け上がり、様々な部屋を覗いた。平和の女神という女がいた部屋では、愛の女神がポケモンを回復してくれて、そして平和の女神が語った。Nがどんな風に、生きていたかを。簡潔に言われた話は消して彼の過去を詳しく知れたわけではないけれど、今までの彼の言動の意味を理解するには十分すぎた。傷ついたポケモンばかりをみて生きてきた彼は、どんな思いを抱えていたのだろう。人間が憎くなるだろうし、悲痛な叫びが聞える特殊な能力の持ち主たるNの事だ、きっと―辛く苦しく、己が人間という事実さえも、憎らしくて仕方が無かったに違いない。けれど、世にはポケモンを愛する人だっている。何が正しいとか悪いとか、そんなことはブラックには分からないことだけれど、今は彼がポケモンを愛する人が存在する事を知っているはずだから、もっと強くそれを押してあげたいだけ。そして、柵に囚われ続けている彼の心を開放したい―。その一身で階段をまた一つ駆け上がり、上へたどり着いたときだ。目の前に、ダークトリニティの一人が現れた。Nが生きてきた部屋がある、自分達にはなんとも思わない部屋でも“お前”と“あの女”なら、何かが分かるかもしれないな―そう呟いた彼のそれは、少しだけ本音が見えた気がした。ブラックは手を伸ばし扉を開ける。―そして、目の前の光景に、目を見開いた。



「……子供部屋…?」



いたるところにある玩具の数、数、数。どれも新しいものばかりで、部屋の隅のタイヤが積み重なった上のスケボーさえ、まだ新しいものだ。スケボー専用のくぼんだU字のものもとくに傷も見当たらず、天井をくるくる回る飛行機も埃を被っている様子はない。バスケットボールだって新しく、床に置かれたミニレールは乱れているが、それすら古ぼけた様子はない。となれば、これは最近になって新しく与えられた玩具だろうか。部屋事態は大分前からのもののように見えるが、最近使用した痕跡がある。絨毯は人が寝転んだ跡がまだあるし、新しいわりに玩具は一度は使われたように散乱している。プラズマ団に子供が居ただろうかと考えた時、脳裏に浮かんだのは女神の言葉。―狭い世界で生きてきたN。まさか、ここは彼の“部屋”なのか―。息を呑んだ瞬間、からん、と。背後のドアから物音がし、ブラックは振り返った。



「――ホワイト…」

「……ここ……まさ…か、」



目を見開くホワイトにブラックは足元に視線を落とす。それが固定だとホワイトは知り、唇をかみ締める。彼が居るには、余りにも幼すぎる部屋。純粋な子供の心を成長させないための、敷居のような部屋は、余りにも異常過ぎた。こんな部屋しか与えられなかったのならば、彼がポケモンだけをトモダチとし、純粋に彼等を求め解放を願ったのも、頷ける。だって彼には、それしかなかったのだから。



「…酷い、酷すぎる」



これじゃあまるで、洗脳して、操ってるだけじゃない。ホワイトの零した言葉はブラックの耳に届いたが、彼はぐっと手に力を入れただけで何も言わない。ホワイトのポケットから落ちた、包みにはいった飴玉を広い彼女の手に渡すと、その手を引いて部屋を出て行く。―世界はなんて、狭く苦しく、悲しいんだろう。







プラズマ団の紋章の入った布が壁にかけられた廊下を通り、中央の大きな扉を前にしたとき、中からゲーチスが出てきた。ホワイトは一瞬手を動かし彼に掴みかかりそうになったが、ホワイトの手首をきつくブラックが握り締め、それを止めた。ゲーチスは双子からの怒りなど知らぬのかぺらぺら語り、中にNが居る事を伝え入り口で薄気味悪い笑みを浮かべ二人を見送る。殴りたくて仕方がないけれど、ホワイトは我慢する。―温厚なブラックが、きつく、赤くなるほど自分の手首を握り締め、震える肩で歩いているのが―分かったから。



「―ブラック、ホワイト」



来たんだね。玉座に座る早口のNの言葉が部屋に響き渡り二人はNへ視線を向ける。白い光を浴びているNは薄っすら笑っている。立ち上がり此方へ歩いてくるNに向かって二人も歩き出す。ぴりぴりとした緊張感、何も聞えない部屋―。静かな空間には、三人分の足音だけが響き渡る。



「…ねえ、N」

「ホワイト、君の話は後だ。僕はレシラムを手にして欲しいといったブラックと、決着を付けたいんでね。君とは沢山言葉で戦ってきたけれど、それはまた後だ…僕は英雄として、きちんと、君臨しなければならない」



そういったNの背後に、ゼクロムが現れる。振動により玉座は崩壊し、ぱらぱらと天井にひびがはいりその欠片が降り注いでくるがNは凛とした態度のままだ。しかしホワイトは戸惑いがちにNを見る。



「―っでも。…ブラックの手元にある、レシラムの卵は、戻ってないわ」

「…戻ってない?…なんということだ、それは」



Nは愕然とする。信じられない、とブラックを見つめるその瞳は揺れており、大げさではないことを語る。ブラックは緩く視線を外すと、本当だと唇を噛む。期待していたNは愕然としたまま、たかがそれだけだったのかと失望したような視線を向けた。ホワイトはそんな様子にきゅっと手を握り締めるが、ブラックのバッグがふいにかたかた揺れだし、勝手にチャックが開き―ぼうっと光る卵が宙に浮かんだ。ゼクロムが現れたことにより、レシラムの卵―いやレシラムが反応しているのだ。光が眩く輝きホワイトとブラックは目を細める。Nは薄暗い目元を細め、卵を見つめた。――光が治まると炎のオーラを纏いし白い存在、レシラムがブラックとホワイトの前に現れる。Nは期待を裏切られなかったと笑うと、レシラムの心を伝える。



「君とたたかいたい、捕まえて仲間にしてみせろ、だって」

「…ブラック、」

「――分かった。それが、望みなら…僕は…俺は、…君を、手にしてみせるよ」



俺には俺の、やらなければならない事がある。レシラムを見上げ視線を交わすブラックにホワイトは視線を外すと、Nの側に寄り見守りましょうと呟いた。ブラックはポケモンを一匹ボールから出すと、レシラムを見つめる。レシラムは攻撃するわけでもなく、ただブラックを見つめた。―ブラックもまた指示するわけでもなく、バッグから一つボールを取り出し、それをレシラムに見せる。貴方が入るのは、ここだ―と教えるように。そしてブラックは宙へボールを投げる。かん、とレシラムの額にボールは当たり、そして。レシラムは、ボールに吸い込まれ、数秒後―かちっとボールの開閉スイッチが押され、レシラムはボールの中に納まった。



「…レシラムに選ばれたんだね、ブラックは」

「それを予想してたんでしょ?…見事だわ」

「いや、君の可能性も本当は、僅かにあったんだ。でも、レシラムは君ではなくブラックの目を見て、決めたらしい」

「そう。…私にはあのポケモンは、余りにも重いわ」



新たに手に入れた、伝説のポケモン―レシラムに、「バルカン」と名をつけたブラックはNに視線を向ける。Nは笑い、腰元のボールに手をかけた。それが合図。ホワイトはNのもとを離れるとブラックの後ろで静かにバトルを見守る。その間、これが彼等の最後の、言葉ではないぶつかり合いかもしれないと思った。鼻の奥がつんと痛くなる。目から涙が零れ落ちそうになり、それを拭いずず、と鼻をすすればチェレンから貰い、ブラックに拾ってもらったレモンの飴を舐め始める。すぅっとする、味。泣くには早い。ブラックはNに手を差し伸べるため、ホワイトは――Nとブラックを見守るため、そして一つ、しなければならない事があるから。背後でずっと密かに此方を見ている存在。そいつを、打っ潰さなければ、気がすまないから。







…最後のNのポケモンが倒れる。ブラックは米神から汗を垂らし、顎下を伝ったそれを拭うと息を吐き出す。Nは憑き物が落ちたような顔をし、ボールにポケモンを戻した。彼の理想は終わり、―彼の重たいものも、ごろんと落ちた。ブラックとぶつかり、そして―どちらが正しいというわけではないけれど、…決着をきちんと、つけたのだ。崩れてしまわないかとホワイトが駆け寄ろうとしたとき、ブラックを押しのけゲーチスが偉そうな顔をしてやってきた。ホワイトは振り返りゲーチスを睨みつける。プラズマ団の真の意味を喋り、己の理想に浸るゲーチスはボールに手をかけ邪魔ものたるホワイトとブラックを消去すると大声で叫んだ。ブラックとホワイトにポケモンバトルを挑むゲーチスを背後からNはうなだれたように、虚ろな瞳で見つめる。ブラックとホワイトはそれぞれ相棒をボールから解き放つと、指示をしゲーチスからの攻撃を避けさせる。同時に双子の連係プレイでタイミングよく囮と攻撃の役割を交互に行い、次々ポケモンを倒していく。そして最後のポケモンを倒したとき、二人はボールにポケモンを戻すと、ゲーチスの薄暗い目にびくりとした。



「何故だ…私はプラズマ団を作り出した完璧な男ですよ…!?」

「―ッ…そうやって驕るからでしょう…?人もポケモンも、…貴方は道具にしか見てない」

「ポケモンなんて私だけが持てばいいんです、道具ですよ道具」

「ポケモンが道具なら、…“ハルモニア”の血を同じく持つNも、貴方には、道具…なんですか」



ブラックの問いかけにゲーチスは、唯笑う。―その瞬間今までじっと我慢していたホワイトは、我慢できないと肩を震わせる。ブラックが気付きホワイトの肩に手をかけようとしたが、一瞬速くホワイトの体が動く。黙っていたNはホワイトが動き出した事に気付き視線を向けた―と同時に、ゲーチスの体が、地面に倒れこんだ。右手を軽く手首からぶんぶん振るホワイトは、顔を抑え倒れこみ小娘が何をすると睨みつけてくるゲーチスに、それを上回るほどの睨みでゲーチスを見つめる。ぎろりとした鋭い目つきはぎらぎら光り、Nは目を見開いた。



「、ホワイト…」

「最低、最低だわ…アンタ。ずっと私はNが怖くて仕方なかった。同時に可哀想で仕方が無かった。でも、今は思う。こんなにポケモンを思って、人に対しても純粋なキモチを持てる人を、歪ませて…無い、無いわ、ホント。…貴方が全部の原因ね、…恥を知りなさい。バケモノは、アンタのほうよ」

「…っ、小娘が生意気なことを…!これだから、貴方のような、子供は嫌いなんですよ!洗脳しやすい純粋さを持つくせに、切れたらそうやって…!」

「煩い、喋るな」



がっ、とゲーチスの腹を蹴飛ばしたホワイトにブラックが慌てて止めに入る。「それは、ダメだ。―どんなに、最低でも、…ダメ」ブラックの言葉にホワイトはだって、と駄々をこねる子供のように言えば目元から涙が溢れぐすぐす鼻をすすり、涙を拭う。ブラックがそんなホワイトの身体を抱きしめれば、後ろから足音が聞える中Nに視線を向ける。



「…N、エヌ。俺は、何がいいこととか悪い事とか、そんなのよくわかんない。セイギとか、悪とか…区別自体、どうつけていいか分からないから。でも、…Nがしたかったことは、俺は、悪い事だったとは思わない。Nが求めたものは、沢山の命の事を考えてのものだったし、純粋で真っ直ぐで。俺は…Nのそういうところ、凄く…好きだし、…Nは、何処も歪んでなんか、居ない」



バケモノっていうのは、こういう人を言うんだ。ブラックはホワイトの身体を離すとNに真っ直ぐ視線を向けたまま話をする。床に倒れこんだ、愚かな人間こそがバケモノであり、これこそが歪んでいると、訴える。―ホワイトもそうだと頷き、ごめんなさいと泣いて謝る。Nはそんな二人に、ただ静かに笑いかけた。チェレン達がやってきて同じようにNに諭すが、Nは笑いをやめると緩く首を振り、それらを否定する。そしてブラックとホワイトに、侘びと願いを託すと振り返りボールを投げた。



「Nッ、」

「…っ、馬鹿…!」

「…僕は、馬鹿だよ。…だから、…サヨウナラ」



振り返り、最後の最後に笑いかければ。―涙を流し口元を手で覆うホワイトの隣でブラックは顔を歪め、Nへと手を伸ばし頬を撫でる。そして、



…さよなら、あいしたひと

(たった一言、―それに全てを込めて、彼等の交わりはフィナーレを迎えた)



2010.10.01



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