[0902xx]イメージ | ナノ

音が 聞こえる。

ぎりっ…。ぎりぎりぎり。
何だっけ、この音。何かが、何かを、締め付ける音。知ってる。知ってるはずだ。



イメージ【Image】




締め付けてる方の何かが、暗闇の中グロテスクにてらりと光った。摩擦なんたら(確か記号はμだった)とは全然縁がなさそうな、ヌルネルした容姿の何か。にも関わらず、あれだけの摩擦音。やられてる方は一体どんだけの力で締め上げられてんだかな。

ボキン、と音がして締め上げられてた何かの一部が床に落っこちた。ねじれた断面からいろんなのが混ざりながらぼたぼたこぼれ落ちて、すっかり血の気が引いた横たわる何かの上へ、赤黒い雨となって降り注ぐ。恵みの雨って言葉があるけど、土気色の何かが赤黒い雨をすすったって赤黒い華なんかが、もちろん咲くわけじゃない。
土気色をした細菌の巣窟(の成れ果て)は、端的に言えばただの生ゴミだ。時間と共に朽ちてゆくのみ。
死んだらそれで全てが、ジ・エンド。

えげつない技だよなーって、いつも思ってた。うん。やっぱ知ってる。
だって、いつも隣で聞いてた音じゃん?
自分は全ッ然手を下さずに相手をオトす、と見せかけてそれすらも現実なのか幻覚なのかはわからない。ああ、そーだ。こんなえげつない殺り方する奴なんか、お前しか知らない。

「マーモン、何してんの?」

尻の辺りから例のえげつない触手をうようよさせたまま、赤ん坊が振り向いた。
その顔はいつも通り表情をうかがわせることはなく、でもいつもと違って不気味な霧ではなく足元にアメンボのような波紋を残して、何にも言わずにすうっと消え去ってしまった。
あいつは赤ん坊のクセにやたらと口うるさくて、とにかくいつも説教じみたことばかり言ってた。恐らく任務中だったのを覗かれたんだから(別に覗いたわけじゃねーけど)、「見物料取るよ」とか何とか言ってもおかしくはないのに、黙って消えたのはおかしい。

「相変わらずな殺り方してんなー」
「いつものケムリみたいなやつ、出さねーの?」
「なあってば。シカトすんなよ、ハナタレ!」
どこにも姿が見えなくなった赤ん坊相手に俺はまくしたてた。返事は返ってこない。
いつの間にか赤黒いぐちゃぐちゃはいなくなって、変わりにひょっこりと、赤ん坊がまた現れた。その小さな体には不相応な位に分厚い本を黙々と読みふけってやがる。こいつは俺をバカにしてんのだろうか。

「ンのやろ…!」

引っ付かんでやろうと伸ばした腕が宙を切った。確かにこの手に捕えたはずだったのに。指先には何の感触も残らないまま、残像だけがぐにゃりと歪んでそのまま消え入った。その跡にはまるで、ミルククラウンでも発生したかのように、深さ0ミリメートルの水面にゆったりと大きな波形が広がる。

ぽかんと間抜け面のまま辺りを見渡すと、ふんぞり返って通帳(らしきもの)を確認してる奴、トコトコ歩き回る奴、小さく丸まって居眠りしてる奴、ふよふよ浮かんでる奴、大好きなゴエンチョコを眺めてる奴、カエルとじゃれてる奴、
たくさんの黒頭巾が次々と浮かんでは消え、最後には一粒の滴になって消えるかのごとく、いちいち波紋となって静かに共鳴している。

ああ、うるさい。うるさい!うるさい!!
(このままじゃ今にあふれる)
(早く、早く止めなくちゃ!)

「マーモン!うるせーからヤメロって!!」

やっぱり返事は返ってこない。返ってくるわけがない。


わかってる。
わかってるんだ、本当は。

ここに在るのは、今まで俺がみてきた、記憶の中のお前。
俺が知ってる全部のマーモン。


ここに在るのは今まで俺がみてきた全部のお前なのに

ここに在るその全てがにせもの。




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -