[090518]恋の更新料と愛の香辛料 | ナノ
※10年後山ビア

「俺の初恋ってビアンキだったんだぜ」

 イタリアから帰ってきたばかりの私に向かって山本武は唐突にそう言って、その後「はらへったなー」などとのたまった。まるで私とランチが同レベルだとでも言わんばかりに。冗談じゃないわ。
 今までそんな事を告げられたのは一度だってない。何故あんたは今さらそんな事を言うの。冗談じゃない。
「知ってたわ、そんなこと。わかっていたから、あえてあんたには冷たくしていたんだもの」
 私は山本武の今さらな告白に、事もなげに応えてみせる。ちょっぴり驚いた様子の顔を無視して私は続けた。
「私が欲しいのはリボーンの愛だけなの。あんたの愛なんか、いらないわ」
「何ソレ、すっげぇ自信」 ふ、と眉を下げてビアンキには敵わねーなと山本武は笑った。

 私が「それ」に気付いたのは、彼から投げかけられる私の呼び名が"獄寺の姉さん"ではなく"ビアンキ姉さん"へと変わった頃だった。
 自分の固有名詞を呼ばれるのも、年上へ掲げられる称号を重ねられるのも、同級生の姉という認識から私という個人を捉えるようになったという事実も、とにかく全てが気に食わなかった。そしてそのまま数年を経たある日、突然彼は私の事を「ビアンキ」と呼び放ったのだ。
 そうやってこの10年でじわじわと、時には唐突に、この男は私を追い詰めてきた。恐らく無意識に。
 どうして今さらそんな事言うの。初恋が私「だった」なんて言わないで、なんて冗談にもならないわ。


「お腹が空いているんだったら、何か作ってあげましょうか。もちろん私の手作りよ」
「え、マジで?ビアンキの手料理も久々だよなー」
 山本武はへらりと笑う。私はこの笑顔が嫌いだった。
「冗談よ。その手料理を食べたせいで、自分が何回死に掛けたと思っているの」
「命がけでも構わねえよ。ビアンキの愛が込もった料理が食えるんなら」
 私の料理に入っているのは毒よ。愛なんかじゃない。
「自信過剰も大概にすることね。あんたなんかに作る料理に愛が込もってるだなんて、そんなこと──」
「あるよ。ビアンキの料理には愛情が込もってんだよ。それが俺の為であっても。だってさ、料理してる時のビアンキの表情ってすっげえ穏やかなのな。んでもって料理ができるまでのひとつひとつの工程を正しく丁寧にこなしてんだろ。それってプロの料理人でも中々できねえ事だぜ」
「……あんたってホント、むかつく事しか言わないのね」
 いいこと?私は誰かれ構わずに愛を振り撒いているわけじゃないわ。
 昔からあんたのそういうところが気に食わなかったのよ。相手の気持ちなんてお構いなしに振舞う、その無神経なところが。

 無神経な山本武の口は止まることを知らずに無神経な言葉を紡ぐ。
「本来生き長らえる為のもので命を奪うって矛盾してっけど、愛を以って死に至らせるっていかにもビアンキらしいと思うし、ある意味そういう死に方は羨ましくもあるっつーか、」
 ばかじゃないの、と思ったがそうだ、この男はバカなのだ。いいわ。お望みならばくれてやるわよ。




─どうぞ召しませ
 愛と紙一重のスパイスを─

恋の更新料と愛の香辛料


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