※翔春に片思いの那月さん





小さかった翔ちゃん。一年で5センチほど伸びた背は、同じくらいだった春ちゃんと随分差が出来た。彼と彼女が並べば似合いのカップルに見える。180センチを越す僕に比べれば小さな差だったけど、寧ろそれがいいのかもしれない。かがむことなくキスができる。


翔ちゃんが恋をしたのはいつだったのだろう。知らぬ間に、彼が彼女に向ける笑顔が、自分や周囲に向けるそれと変わっていた。ほかの誰にも向けない熱っぽい視線を彼女だけに送るようになったし、彼女の名を口にする回数も以前より増えた。

彼と会っても言動の端々にその思いを感じてしまう。





久しぶりに会う翔ちゃんはめずらしく小さな花束を手にしていた。



「その花、どうしたの?」

「花屋でちょっと見かけてさ」


真っ白な、小さい花が数本が大きくなった手に収まっている。
まるで彼の思いを表わすように、綺麗で可憐な花だ。



「春歌の髪によく似合いそうだろ?」




きっと春ちゃんも翔ちゃんを好いている。彼女の瞳も恋する瞳だ。
近いうちに二人は恋人になるのだろう。結婚もして、子供も持つかもしれない。二人なら幸せを築ける。
その時、僕はどうすればいいのだろう。二人の横で、彼らの幸せを見守るのかなぁ。ううん、きっと無理だ。翔ちゃんも春ちゃんも僕にとってかけがえの無い存在だもの。嫉妬で気が狂ってしまう。どちらに、なんてわからない。僕は二人とも好きで、二人ともに嫉妬するのだろう。


止められないとわかっていても、愚かな自分はその日が一日でも、一時間でも遠いことを願ってしまう。
いっそ子供のように叫ぶことができたなら。




「(ヒトリにしないで!)」

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