いつの間にか、つけるキスマークが増えていた。


一人の女性に執着するなどなかったことだ。肉親にすら敬遠されていた自分は、人を深く愛することの意味を知らなかった。執事や長兄の影ながらの支えはあったものの…正面から向き合ってくれる人はいなかったのだ。女性達との触れ合いは寂しさを埋めるための戯れ。誰でも良かった、俺を一人にしないでくれるならば。

そんなどうしようもない俺に愛を教えてくれたのは春歌だ。学生時代、冷たくしても突き放しても追いかけてくれた。心が通じた人との抱擁は、涙してしまいそうなほど心地が良いものだと教えてくれた。しかし同時に…嫉妬、という醜い感情も知った。

春歌が他の男と話しているだけで、心が黒一色に染まる。心拍数が上がる。そういう時は二人の会話を終わらせるようにさりげなく持っていくけれど…いつも必死に、ヒステリックに叫びそうになるのを堪えている。その美しさと生み出す音楽で周囲を魅了する彼女が…攫われてしまうのではないかと、不安が心を蝕む。

きっと、そのせいだ。柔らかい真っ白な肌に刻まれる鬱血痕を見ると、ほんの少しだけ安らげる気がして…つい、多く残すようになってしまった。



「…ん、ぅ……っ…」

唇を寄せるごとにぴくりと敏感な体を震わせて…小さく吐息を洩らす。ベッドの中で睦み合う最中、時間をかけて多くのキスマークを残すことに、春歌は何も言わない。鎖骨付近に跡を刻んでいる時は身をかがめて俺の髪に接吻けを落とす、大腿の内側であれば華奢な手で俺の頬をゆるく撫でる…そうして蜂蜜色の瞳で慈しむように見つめてくるのだ。


その瞳を、キスを交わした後に間近で見てしまえばそれまで胸に押し込めていた想いが溢れだして…


「本当は今すぐにでも…アイドルを辞めて、作曲家を辞めさせて、君を独り占めしたい」


ぽろりと弱音が零れる。そんな俺を春歌はぎゅうと抱きしめて、優しく微笑む。それだけで気持ちが少し軽くなる。

彼女には少しでも格好良く見られたいと思っているのに上手くいかない。でも、こんな情けない俺を変わらず好きでいてくれるのがたまらなく愛おしくて…思いを腕に込めるようにしっかりと抱きしめ返せば、自分よりも少し高めの体温が、じんわりと肌に馴染んでいった。




甲斐性無し
(君の前では、どうしようもない一人の男)




なお様
大変お待たせしました!余裕なく嫉妬してちょっとスマートじゃないレンのお話、というリクエストだったのですが…お答えできておりますでしょうか?ものすごくヘタレンになってしまってここまでやってよかったのかとちょっとびくびくしておりますw(・ω・`;)

何かリクエストと違いましたらご遠慮なくおっしゃってくださいませ〜!リクエスト頂きありがとうございましたv\(*´∀`)/


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -