二.
日本が長い鎖国から抜け出して十数年、異国文化を取り入れて和洋が入り混じる時代に真斗は生まれた。
国有数の財閥である聖川家の嫡男として恥にならぬようにと幼いころから厳しい教育を受け育ち、十七になる頃には財界では知らぬ男になっていた。

優秀さもさることながら、何よりも彼の容姿が人目を集めた。
さらさらとした群青色の髪に上がり目に収まった同色の瞳、通った鼻筋を持つ顔は中性的である。けれども体は確かに男のもので、六尺はあろうかという背丈で着物のみならず、日本人には似合わないといわれた洋装までも完璧に着こなす彼の姿に…男女問わず一目見ただけで感嘆の吐息を漏らしてしまう。

しかし、そのように美貌も才気も家柄も兼ね備えている男であるにも関わらず…女っ気が無いのが聖川真斗という青年であった。顔を出した夜会で貴婦人がこぞってめかしこんでも特に興味を持たずに淡々と後継ぎとしての責務をこなすばかりで、女性達も聖川との繋がりを持たんと娘を彼の嫁にあてがおうとする男たちも歯噛みしていた。

お堅い御曹司にどうにかして色事に興味を持ってもらおうと、多くの家がとりあえずは手を組もうということにすらなったのである。

そのためのひとつの策であったのだろう。
日暮れから優にニ刻が過ぎるという刻限に真斗は男たちに囲まれ連れ出され、料亭にいた。日頃規則正しい生活を送る彼にとって夜分まで外にいることは避けたかったのだがこれも付き合い…いくら小さいとはいえ、繋がりを重んじる華族社会で幾度も断るのは気が引けた。業界を牛耳る父親はこのような会合に参加することはないので、名代として真斗が参加しなければならなかった。

つまらない話に礼を失さない程度に相槌をうちながら、耳は男たちが呼んだ芸妓が奏でる長唄のほうを追っている。弾いているのは若い女性であったがその音は見た目以上に洗練されていて、つい聞き入ってしまう。

音楽は好きだ。




※携帯で読みやすいように改行を増やしていますが、本では詰めてあります。縦読み二段組です。
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