レコーディングルームでハルと話をすること。それはいつもと変わらない風景だった筈だ。しかし今起きていることは明らかに異常だ。
何が異常かといえば、自分が激しく動揺していることであり、彼女の様子でもある。


見上げてくる瞳。今はうっすらと涙の膜でおおわれている。
いつもは人懐っこい笑みを浮かべている口元はしどけなく緩んでいるし、首に回された細い手はいつもよりも強張っている。何よりも、距離が近い。冗談めいて抱えあげることはあったが、照れ屋の彼女から抱きつかれることなど考えたこともなかった。
どうすればいいのものか、と必死に考えるが浮かぶのは封印してきたはずの邪な思いばかりだ。


「…聖川さま」

いつもより紅く色付いた唇が、自分の名を呼んだ。
ハルは俺の友人でパートナーで…だから彼女を、傷つけては、ならない。そう考えているのに体は全く別の行動をとる。気がつけば、やわらかな彼女の頬に手を添え唇を重ねていた。

頬に触れるだけならいいだろう。
友達ならそれくらい普通だと自分に言い訳して行動に移した。すると今度は唇を重ねるだけ、舌をからめるだけ、と次第にエスカレートしていく。自分で自分に言い訳をし続けながら、行為はゆっくりと、しかしながら着実に進んでいった。
いつの間にか目の前にはリボンが外れシャツの前を肌蹴させたハル。胸当たりのボタンに己の手がかかっていることから、どうやら自分が脱がせたらしい。

戻ってきたばかりなのに今にも吹き飛んでしまいそうな理性が最後の歯止めをかける。ボタンをかけ直すことも、はずし終えることもできなくなってしまった。動くとシャツを引き裂いてしまいそうだからだ。
冬だというのに背中は汗でびっしょり濡れていた。


「まさと、くん」


呼ばれて顔をあげると、目の前に夕焼け色。それがハルの髪で、彼女のほうからキスをしてきたのだと気づいたのは、小さな舌がおそるおそるといった様子で己の口に入り込んできてからだ。

彼女からの初めてのキスは、理性なんてものを放り投げる理由には十分すぎた。

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