※大人設定、トキ→春→レン。



空港で三ヶ月ぶりに出会った彼女は、更に美しさを増していた。生み出す音楽と同様に、どんどん綺麗になっていく春歌…しかし少し乱れた照柿色の髪と、生気のない表情がその美しさを曇らせていた。目元が赤く腫れている。

「おつかれさまです」
「一ノ瀬、さん…」
「行きましょうか。十時間以上のフライトですものね、疲れているのでしょう」

憔悴しきった彼女のスーツケースを受け取って、自宅へと車を急がせた。




よほど疲れていたのだろう…車内で眠りこけてしまった彼女をベッドへと運んで、翌日。日が完全に昇りきった頃に目覚めた彼女と遅めの朝食をとって、今後の予定について話をしていた。

説明するが、彼女はどこか落ち着かない様子でぼうっと予定表を見つめていた。疲れが抜け切らないというのももちろんあったのだろう。しかしそれ以上に彼女の心を占める男のせいだろうと気付いてしまって…つい意地悪く尋ねてしまった。



「…おいてきたレンのことが気になりますか?」


はっとしたように息をのむ春歌。どんなに上の空でも、この名前にだけは過剰なまでに反応する彼女が、少し憎らしかった。

「君がまだ、あの男を想っているのは知っています」

この話を続けても、ただ彼女の傷を抉るだけだと気付いていてが、どろどろとした感情が止められない。

「っ…そんな、こと、は…」
「それでもかまいません」

何かを言おうとする彼女を遮って、一息に言う。


「愛しています春歌。ずっとずっと昔から、君だけを、想っていました」



春歌とレン、学生時代から長くコンビを組んできた二人の関係に、ひびが入っていることは知っていた。すれちがい顔すら合わすことが無くなった日々の中で…三年前、とうとう彼のための曲が作れなくなってしまった、と取り乱した声で春歌から電話があった。BGMなどの大半の仕事に支障をきたしていないが歌曲を作ろうとすると、糸が切れた人形のように指が動かず、音楽が紡げなくなってしまったのだという。あの男のためにすすり泣く彼女がたまらなく可哀想に思えて、時間がある限り練習に付きあう、直にふれ合ってやり取りをする中できっと感覚を取り戻せると慰めた。

それから元々タイトなスケジュールを更にやりくりして、一年に何度か拠点のニューヨークから日本へと戻る時間をとったのは全て彼女のためだ。

何年も積もり積もってきた感情は既に限界を迎えていたらしい。一度零れてしまった秘めていた想いはとどまるところを知らず、次々と言葉が出て着てしまう。



「だから…君を愛することを…許してください…」

「好きです、どうしようもなく」

「たとえ想いが報われなくても、君だけを想って、この十年を生きてきました」




彼女が彼を忘れることができれば、それでいいと思った。そのために春歌をここへ呼び寄せたのだ。一人で抱え込んで一人で泣くことがないように、と。

それなのに、こんな傷心につけこむようなことをしていることに、自嘲の笑みが零れる。学生時代からずっと想っていた。別の男を想っているとわかって相談役に甘んじていても、忘れられなかった。

一ノ瀬さん、と震える唇で名を呼ぶ彼女を、そのままソファへと押し倒す。抵抗は、ない。

一方通行の想いで体だけを繋げる――こんなことは傷の舐めあいだ。そんなことは春歌も私もわかっている。それでも、愛する女性との接吻けはとてつもなく甘美で…釦にかかる指は止まることがなかった。




悲しく傲慢で、不毛な心
(いつか、私を愛してください)


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