休日の昼下がり、いつものように俺の部屋に来た春歌に、これ着てみてよ、とラッピングされたままの洋服を手渡した。突然の事に首をかしげながらも彼女は素直に受け取ってくれて、今バスルームで着替えている。さてと…俺も準備しなくちゃ。春歌のよりもパーツが多いから急がないと、彼女を待たせることになってしまう。

ベッドルームに駆け込んでクローゼットから洋服一式を取り出す。普段はあまり着ない糊が利いたワイシャツやベストを身につけて、白い礼服…一般的にはタキシードと呼ばれるものに手を通した。鏡を見ると、まだ大人になりきっていない俺にはちぐはぐな感じがしたけれど、それは見ないふり。癖毛を軽くまとめて、部屋を出た。



「あの…もしかして、これは…っ…」

階段を下りると丁度春歌もバスルームのドアから出てきたところだった。足首まで隠れる程長い丈の純白のドレスを纏う姿は、今までで一番キレイかもしれない。頬を真っ赤に染めて口をぱくぱくとさせる彼女の小さな手に握られていたヴェールを受け取って、山吹色の瞳が隠れるように出来るだけ優しく、かけた。


「春歌、結婚式しよう」

神父さまも参列者も鐘の音も無いけど良いかな、と尋ねながら手を伸ばすと、春歌はこくりと頷いて手を重ねてくれた。




まだ十七歳になったばかりで、それぞれ駆け出しのアイドルとその作曲家である俺達は年齢的にも立場的にも、世間に認められる関係にはまだなれない。婚姻届を出せるようになるまではきっと長い時間がかかる。それはこの道を選んだ以上、仕方の無いことだ。でもだからって愛を誓っちゃいけない理由には、ならない。あと数年したら入籍する前にひっそり式を挙げようと思っていた。

その思いに拍車をかけたのが、この前二人で買い物に行った帰りに偶然通った教会で行われていた結婚式。綺麗ですね、とそれを見て微笑んだ春歌に、君だったらもっと綺麗になると思うけど…と考えたのは秘密だ。でも、それからは仕事の時間を除いて彼女のドレス姿ばかり想像するようになってしまって…気が付いたら、買ってしまっていた。ドレスとタキシード一式を。それが届いたのが昨日で、そこからはもう勢いだ。ままごとみたいだ、と呆れられるかもしれなかったけれど、彼女は受け入れてくれて俺の目の前で笑ってくれている。



ふわふわとしたドレスで歩きにくそうな彼女をリビングのソファに座らせて、傍らに跪く。左手には彼女の左手を、右手には、黄金色の小さな輪を手にして、潤む瞳を見つめた。泣きそうになっちゃって可愛いなぁ。

結婚式の進め方なんてよく知らないからただ思うままに行動し、言葉を紡いだ。



「一十木音也は…七海春歌を、生涯愛し続けます」



ぽろりと涙を溢れさせた彼女の左薬指へと指輪を嵌め、その上からキスを落とした。





きみへ
(神様でも法律でもなく、君に誓います!)




ibu 様へ。
大変お待たせいたしました!音也と二人たまたま通りかかった教会で挙げられていた結婚式を見て新たに将来を誓い合う、というシチュをいただき…楽しく書かせていただきましたv(恋人の音也と弱っているレンとの間で揺れ動く春ちゃんというもう一つのシチュも素晴らしいものだったのですが、前者を選ばせていただきました)

その素晴らしいシチュを十分に生かしきれているかが不安ですが…少しでもibu様にお楽しみいただけたら幸いです!(何か引っかかる点などございましたら、遠慮なくおっしゃってくださいませ^▼^;)
リクエスト、誠にありがとうございました!
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