※大正主従パロ。





公家の末裔として蝶よ花よと育てられた春歌に不幸がやってきたのは、十五の時だ。一年で家族を病で次々に亡くし、残ったものは治療費の為に膨れた借財と屋敷、そして僅かな使用人のみ。援助を理由に求婚してくる男はいた。しかしその者達は親子ほど年が離れている商売人ばかりで、金と引き換えに家名を得ようとする魂胆が見え見えだった。その者達と婚姻を結ぶことに、政略結婚ながらも愛し合っていた両親を見ていた春歌は諾とは言えなかった。

そんな折りに、若くして家老を務めていたトキヤに提案されたのだ。

「お家を、おとりつぶしにいたされましょう。お嬢さまお一人の生活ならば私が何とか致します」

祖母に拾われ、春歌が五歳の頃に屋敷へとやってきてから彼はよく働いた。遊び相手から、庭の整備、掃除、給仕まで。人見知りが激しく滅多に人に心を開かない春歌も、十歳離れたこの使用人には何でも相談できた。家が傾き、多くの人間が屋敷を去った今でも彼は変わらず傍にいてくれた。そんな彼の言葉だからこそ、取り潰しに関しては春歌も素直に頷いた。しかしながら、これから先の生活をトキヤに甘えることはできなかった。もう暫く僅かな給金であれこれ働いてくれるトキヤに、これ以上負担をかけるのは忍びなかった。

女給として働けば女一人慎ましく生きていくのに問題はないと断るが、トキヤは中々引き下がらない。自分の幸せを探して欲しい、と彼の手を握って告げるが首を横に振るばかりで…ついには膝から崩れ落ちてしまった。瑠璃色の瞳から涙が溢れ、絨毯に染みをつくっている。

「何も起きなければずっとこの想いは己の胸へ止めておくつもりでした…あなたと、離れたくない」

お慕いしております、と消え入りそうな声で、言う。

思いもよらぬ告白に春歌は戸惑う。はっきり言ってしまえば、彼を恋愛対象としてみたことが無かった。この時代使用人であり、拾い子であるトキヤと良家の子女である春歌が結ばれることなど万一にも無いからだ。それでも、彼の手を払うことは出来なかった。いや、しなかった。家族も家名も財産も何も無いちっぽけな自分を求めてくれる彼を…愛おしく思う気持ちが芽生えたのだ。



そうして二人は、家の処理を終えたあと、ひっそり田舎へと移り住んだ。僅かに残った財産で小さな家を買い、畑を耕して日々の糧を得る。優しく包み込むように愛するトキヤに、日が過ぎるごとに春歌のトキヤへの愛は深まっていき…神前で夫婦となるのを誓った。






普段は穏やかなトキヤであったが夜はまるで獣のように、息をつく間もないほどに春歌を攻め立てる。何度も何度も激しく出し入れて、子宮へと精を放ち…二人の体液が混ざり合いぐちゃぐちゃと音を立てても動きを緩めることはない。快感と疲労で春歌が意識を飛ばしそうになると深い接吻けをして、引き戻してくる。

「可愛い…はる、か…っ」

褥で肌を合わせるときだけは、名を呼び捨て荒々しく自分を扱う。春歌はこの時がたまらなく好きだった。家族を始めとする多くのものを失ったけれど、神様はトキヤまで奪わなかった。そのお陰で今自分は幸福だ、慎ましくも幸せな日々を過ごしている。愛されて意識が朦朧としながら、天に感謝する。




彼女は、知らなかった。




その細やかな幸せが、誘導されたものであることを。その幸福を与えてくれる彼が、不幸を与えた張本人でもあることを。




「(貴女のお祖母様には恩が有りましたけれど、貴女と一緒にさせてくださらないことは明らかでしたから…お隠れいただきました。無味無臭のお薬をお食事に混ぜて、癌を誘発して。順調だった御父上の事業を転覆させて心労と薬で追い詰めて、御母上は夫君の後を追ったように見せかけて、手にかけました。そうして貴女を一人ぼっちにした。だって出自は変えられないのですから、乞食であった私が、貴女を手に入れる為には必要だったのです…貴女に堕ちて来て貰う事が)」



只知らなかっただけで

(元使用人=夫=親の敵)




柚子葉 様
優しく甘いトキヤさんがその実どこか狂っている、という美味しいシチュをありがとうございました(*´ω`)狂愛…大好物です。それに個人的ブームな大正を混ぜてみました。私はすごく楽しかったです!←
柚子葉様に楽しんでいただけると良いのですが…。あと、不健全さと狂ってる部分が最後にちょっぴりになってしまって申し訳ありませぬ(´・ω・`;)物足りないようでしたら、書き直したり付け足したりいたしますのでどうぞお申し付けくださいね!
この度はリクエストありがとうございましたv

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