※大人設定で、幸せじゃない二人。







おかしいと思ったんだ。
最近やたらと彼女以外の人間が作る曲を持ってくるのを、その度に同じ理由で突っぱねた。確かにデビュー当時から比べれば、曲を作るペースは落ちてきていた。けれどそれはドラマなどの他の仕事で俺の時間が限られているせいだし、何より、俺は彼女以外が作る曲を歌う気が無いからと。


そうしたら、いきなりボスに呼び出されて、七海春歌をお前の専属から外す、だなんて。


納得できずに彼女の家へと向かえば、そこはもぬけの殻。実家の力まで使って調べれば、分かったのは彼女が空港へ向かったということだった。必死になって空港へたどり着くと、彼女はファーストクラスのラウンジでお茶を飲んでいるところだった。思わず怒鳴りそうになったが、怒りを抑えて彼女の前の席へと座る。

「どういう、つもりだい?」

冷静に切り出したつもりだが、言葉の端々に怒りが滲み出てしまった。彼女はぴくりと肩を揺らしたが、それ以外に動揺は見られない。

「…社長からお聞きの通りです。神宮寺さんの専属を外れて、一ノ瀬さんのお手伝いをする事になりました」

だから一時間後の飛行機で発ちます、と無表情で淡々と話す。…彼女はこんなにも冷静な人物だったろうか。もっと以前は、笑顔で時々ドジをしながらも真っ直ぐ俺に向かっていた。今は俺に視線を向けつつも心あらずといった様子だ。

いつから変わってしまった。
いや、そもそも以前顔を合わせたのはいつだ。ここ数年、曲作りはメールや電話でのやり取りだ。肩辺りで揺れていた彼女の髪は今や腰元まで伸びていた。俺は、いつから…彼女に会っていないんだ。

長い沈黙の後、突然口を開いたのは彼女だった。


「私、神宮寺さんのこと、好きです」

驚愕に、心臓が一際大きく脈打つのを感じた。彼女が、俺を?まさか…しかし、ならば何故離れようとする。

「でも、ずっと辛かった…貴方は私の曲を愛してくださるけれど、私のことを女性としては見てくださらなかった」

感情が抜け落ちたかのような顔の中で、琥珀の瞳が唯一悲哀を表している。まろやかな頬を伝う涙から視線がそらせなかった。

そんなわけ、無い。
俺の初恋は君だ。だけれども、初めての気持ちに怯えて、本当に好きな人には気のないふりをした。俺なんかが触れたら彼女が汚れてしまいそうで怖くて…夜の相手に立候補してくる女性たちの中から、どこか彼女に似ている子を選んで抱くことで、想いを押し込めていた。純真無垢な彼女が、俺のような遊び人を選んでくれる筈がないと思って…ならばせめて彼女が作る曲だけは独占しよう、とがむしゃらに働いた。
その結果がこれなのか。


「…行かせないと言ったら?」

君は俺の作曲家だろ途中で放り出すのか、と仕事を盾にしか話せない自分が情けない。自分の行動を顧みれば信用はされないことは分かっていたから…好きだから行かないでくれ、とは言えなかった。すると彼女はくしゃりと顔を歪めて、

「それじゃあ、ますます…私を行かせるしか、無いじゃないですか」


もう三年も前から俺の曲が作れない、と告白した。作れるのは、俺のイメージからはかけ離れた物寂しいメロディばかりなのだと。なのでそれからはストックを渡していたが…それもひと月前に無くなってしまった。


「これ以上、貴方にして差し上げられることが無いんです」

だからさようなら、と弱々しく微笑む彼女を、これ以上引き止める術なんて無かった。



割れた心臓
(すれ違いで、愛を壊した)




ジェミニ様
レンでどちらでも可、シチュ指定は特になしだったので、本当に好き勝手書かせていただきました。
リクで悲恋はどうかとも思ったのですが…妄想が止まりませんでした。ごめんなさい。
もし、「幸せなレン春が見たくてリクしたのに…」ということでしたら、お手数ですが拍手からお伝えくださいませ…!すぐに書き直し、幸せなレン春をお届けさせていただきます!
リクエスト頂きありがとうございましたvお気に召したら良いのですが…違いましたら遠慮なく仰って下さいませ(´・ω・`;)


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