貴重な騎士団の休みに、だだっ広い母親の実家に顔を出したのは可愛くもない従兄弟にされた頼み事のためだった。本来ならば男の願いなど聞かないのだが、少なからず借りがあるのを考え渋々、仕方なしに。


客間に通され一時間程経つが件の男が姿を現さない。事前に使いを出し今日訪ねるのは知らせておいたのだから、いないわけはないのだが。

無駄に時間が消費されるのに苛々して部屋に乗り込んでやろうかと立ち上がると、狙ったようにドアが開かれた。


「…寝間着のままご登場とはいいご身分だな、コラ」

「リューヤさん。悪かったから…すまないけど、声を抑えてくれないか?殆ど寝てないんだ」


こいつの寝起きの悪さはいつものことだ。しかしいくら遅くとも真っ昼間まで寝ていることはそうない。昼時まで寝ているとき、そしてこの機嫌の悪さは…


「また拗れたのか」
「……ご明察の通りだよ」


昨晩のお相手だったとある伯爵夫人が、離縁をするから自分と一緒になってくれと切り出したのだという。首を縦に振らないこいつに、癇癪を起こした夫人を宥めるのに費やしたのが5時間、日の出頃にきた向かえの馬車に乗らせ何とか帰らせたらしい。


「花は美しく咲いたままでいて欲しいものだね…」


笑顔との差によって怒りに歪んだ顔はより醜い、というようなことを以前言っていた。

こいつは女に優しくするくせに…愛が遊びの域を越えると手を返したように冷たくなる。その後、顔を合わせても作り物だとわかる笑みを浮かべて、会話は最低限だ。


「ところで、頼んでたことは?」

もう十分だというように話題をすり替えたので、少し説教めいた言葉を飲み込んで大人しく流れに従った。今まで何度も注意して直らないのだから、言っても効果は無に等しいだろう。


「客数、広さ、距離からすると、適当なのは四ノ宮家だろ。当主は楽器のコレクターでな、借金してでも買ってるようだぜ」

こいつの頼みというのは音楽会の会場を探して欲しいというものだった。始めは神宮寺家別荘で開く心積もりだったそうだが、聖川の演奏家を参加させるには中立貴族の屋敷で行われることを条件に出されたそうだ。


「落ちぶれた旧家ってのもポイント高いな…会を開くというのはあちらの体面を保つことにもなって、貸しを作れる」
「じゃあ、そこに決まりだ。さすが騎士団長殿だね。良い情報が集まってくる」
「茶化すな」
「いやいやホント感謝してるんだ」

ジョージが遠方に行ってて自分にはどうにもできなかった、と肩をすくめてみせるがそんなのは只のポーズでしかない。こいつにはいくらでも手があって、その中で一番手近な俺を使っただけの話だ。


「ありがとな、リューヤさん」

そう言って、企むような笑みを浮かべる。何かを起こすための音楽会だということは容易に想像できた。恐らくは女関係だ。そうやって興味本位に手を出すから、今朝のご夫人のような面倒事が起きるのだと言い掛けたが、止めた。

これ以上こいつに時間を割くのはごめんだ。



いい加減な優しさ
(遊びの恋のためのもの)



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