「動かないで下さい、あなたを傷つけたくないのです」
剃刀を持ち艶やかに微笑むトキヤに、春歌はぴたりと抵抗を止めた。冷たいバスルームの床に寝転がり、膝を胸まで折り曲げて脚を開くのは言いようの無いほど恥ずかしかったが、自分の彼が刃物によって怪我をするかもしれないと思うと大人しくせざるをえなかった。
いい子ですね、と瞼にキスをするとトキヤは体を下へとずらす。そして春歌の、自分でもあまり見ないような…つまりは彼と繋がる場所へと、剃刀を滑らせ始めた。
きっかけは春歌の話のようだった。夕食後、ソファに座り互いの一日を話していた。トキヤは仕事の話を、春歌は親友との旅行の思い出を。春歌の髪を弄っていたりと機嫌よく話を聞いていたトキヤだったが…友千香と共に入った温泉が素敵だった、と話すと彼の態度が豹変したのだ。いきなり立ち上がり春歌の手首を軋むほど握り引き摺っていく。たどり着いたバスルームで、混乱する春歌の服を半ば強引に脱がせ、床へと押し倒したのだ。そして、抵抗する彼女をねじ伏せて秘所に泡立てた石鹸を塗りたくった。
「あなたは私のものでしょう?ダメですよ、裸なんて見せては…お仕置きです」
終わりましたよ、と声をかけられ春歌の意識が引き戻される。先ほどまで剃刀を握っていた手にシャワーを持ち、バルブを捻っていた。適温に調節された湯によって橙色の毛が泡に混じって排水溝へと流れていく。
「…可愛いですよ、春歌。こどもみたいだ」
これでもう温泉は無理でしょうね、と、つるりとした秘所を撫でてトキヤは笑みを深くする。こうして恋人に染められていくのは何度目だろうと考えながらも、剃られた箇所が潤うのを感じて…春歌はようやく自由になった腿を擦り合わせた。