◎ ごめんね、だいすき
どこにいるかと思ったら、真っ白な雪の中心に彼はいた。スリザリンカラーのマフラーをきちんと巻いて、両手にはあっと息を吹き掛けている。
一瞬声をかけるのをためらった。
なんだか、額縁の外から絵画を眺めているような、そんな切り離された世界に彼がいるように感じた。
それは、私の心が決まったからかもしれないけれど。
「レギュ」
声をかけると、レギュラスは私のほうを向いて微笑んだ。
「レイシア」
その笑顔に胸がツキンと痛む。
ざくざくと雪を踏み締めて、レギュラスの側まで行く。
ああ、やっぱり彼は背が高い。ぐいっと手をとるとそれは案の定冷たくて、なんだかわけもわからず涙が溢れた。
「へ、あれ……? なんでだろ、」
ローブでごしごしと目を擦ってみるけど、次から次へと溢れてくるそれは拭い去ることはできない。
「え、レイシア?」
自分でも驚いたけど、レギュラスはもっと驚いたらしく、頬に冷たく白い指が触れた。おろおろしたレギュラスが珍しくて、思わず吹き出す。
するとレギュラスは少し拗ねたように、私の頬をつねった。
「い、いひゃい」
ぺしりと額を叩かれて彼の顔を見上げると、案の定眉間に皺が寄っていた。綺麗な顔が台無し――になるわけではなくて、なんだかそれさえも計算されたように整って見えた。
そう思ってしまうあたり、なんだか、もう救えない。
「レギュでも、おろおろするんだね」
「あなたは人を何だと思って…」
再び頬に彼の指が触れる。
一度止まった涙が、また瞳に溜まっていくのがわかった。
「うん、ごめん」
ごめんなさい。
「ごめんね、レギュ……」
頬に添えられたレギュラスの手に、そっと指を這わせて。きゅっと握ると、レギュラスは何かに気付いたようだった。
「……うん」
「ごめんね」
「うん、いいんだ」
レギュラスは笑っていた。堪えるような痛々しい顔で。
とれかけた私のマフラーを彼が直してくれた。赤と金の、グリフィンドールカラーのマフラー。
「レギュ……レギュラス」
「なに、レイシア」
こつんと額をレギュラスの胸に預ける。
ひどく優しい手つきで彼が私の髪を梳く。
「だいすき」
吐息に乗せて、私は、初めて自分の想いを彼に伝えた。レギュラスの手が一瞬だけ止まって。何も言わずにまた私の頭を撫でる。
「でもね……一緒には、いけないや」
レギュラスが、いいんだ、と押し殺した声で告げたのが聴こえた。
ああ、できることなら。
私の鼓動が、彼の鼓動が、今この瞬間で止まってしまえばいいのに。そうしたらこの、額縁の中のような隔絶された雪の中に二人で埋もれて、いつまでも一緒にいられるのに。
ままならないな、と私は思った。
ごめんね、だいすき
ふたりで生きていられたら でもね、あなたがどこかで生きていてくれるだけで、私も生きていけたのに。
どうして死んでしまったの。
嗚呼、ままならない。prev|next