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 ごめんね、だいすき

 どこにいるかと思ったら、真っ白な雪の中心に彼はいた。スリザリンカラーのマフラーをきちんと巻いて、両手にはあっと息を吹き掛けている。

 一瞬声をかけるのをためらった。
 なんだか、額縁の外から絵画を眺めているような、そんな切り離された世界に彼がいるように感じた。

 それは、私の心が決まったからかもしれないけれど。

「レギュ」

 声をかけると、レギュラスは私のほうを向いて微笑んだ。

「レイシア」

 その笑顔に胸がツキンと痛む。
 ざくざくと雪を踏み締めて、レギュラスの側まで行く。
 ああ、やっぱり彼は背が高い。ぐいっと手をとるとそれは案の定冷たくて、なんだかわけもわからず涙が溢れた。

「へ、あれ……? なんでだろ、」

 ローブでごしごしと目を擦ってみるけど、次から次へと溢れてくるそれは拭い去ることはできない。

「え、レイシア?」

 自分でも驚いたけど、レギュラスはもっと驚いたらしく、頬に冷たく白い指が触れた。おろおろしたレギュラスが珍しくて、思わず吹き出す。
 するとレギュラスは少し拗ねたように、私の頬をつねった。

「い、いひゃい」

 ぺしりと額を叩かれて彼の顔を見上げると、案の定眉間に皺が寄っていた。綺麗な顔が台無し――になるわけではなくて、なんだかそれさえも計算されたように整って見えた。
 そう思ってしまうあたり、なんだか、もう救えない。

「レギュでも、おろおろするんだね」
「あなたは人を何だと思って…」

 再び頬に彼の指が触れる。
 一度止まった涙が、また瞳に溜まっていくのがわかった。

「うん、ごめん」

 ごめんなさい。

「ごめんね、レギュ……」

 頬に添えられたレギュラスの手に、そっと指を這わせて。きゅっと握ると、レギュラスは何かに気付いたようだった。

「……うん」
「ごめんね」
「うん、いいんだ」

 レギュラスは笑っていた。堪えるような痛々しい顔で。
 とれかけた私のマフラーを彼が直してくれた。赤と金の、グリフィンドールカラーのマフラー。

「レギュ……レギュラス」
「なに、レイシア」

 こつんと額をレギュラスの胸に預ける。
 ひどく優しい手つきで彼が私の髪を梳く。

「だいすき」

 吐息に乗せて、私は、初めて自分の想いを彼に伝えた。レギュラスの手が一瞬だけ止まって。何も言わずにまた私の頭を撫でる。

「でもね……一緒には、いけないや」

 レギュラスが、いいんだ、と押し殺した声で告げたのが聴こえた。

 ああ、できることなら。
 私の鼓動が、彼の鼓動が、今この瞬間で止まってしまえばいいのに。そうしたらこの、額縁の中のような隔絶された雪の中に二人で埋もれて、いつまでも一緒にいられるのに。

 ままならないな、と私は思った。



ごめんね、だいすき

ふたりで生きていられたら




 でもね、あなたがどこかで生きていてくれるだけで、私も生きていけたのに。
 どうして死んでしまったの。

 嗚呼、ままならない。




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