Dream | ナノ

 なんか、今

 あ、レギュだ。

 昔、私が「レギュ」と呼ぶと、彼に「レギュラスです変なあだ名つけないでくださいこの馬鹿」と鼻で笑われたもんだが、最近は何も言わなくなった。きっと呼ばれてるうちに気に入ったに違いない。

 いつの間にか敬語もなくなって、普通に私の名前も呼んでくれるようになっていた。こんな破格の待遇、スリザリンの中でも、同級生の女の子の中じゃ私だけ!

 考えていたらなんだか嬉しくなってきた私は、むふふ、と含み笑いをしながらレギュに近づく。
 すちゃっと手を上げて、

「レギュー何してるの?」

 と声をかけてみた。
 そしたらギロリと睨まれた。怖い。さっきの幸せが吹っ飛んだ。今日はまだ何もしてないのに!

「ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない」

 ぐしゃり、と彼の手の中で何かが音をたてる。
 高級そうな封筒。……ん?

「それ、お家からの手紙じゃ」
「あんのクソ兄貴……」

 華麗にスルーされてしまった。
 でもそんなことよりも、レギュがぼそりと呟いた言葉が気になって仕方がない。
 もう一度声をかけようとしたとき、レギュが封筒を床に投げつけた。

「え、えええ」
「あの馬鹿兄貴! 馬鹿なら馬鹿なりに底辺を彷徨って馬鹿道を貫けばいいものをどうして成績だけはいいんだあの馬鹿!」

 ああくそ! と家から来たらしい手紙に杖を向けるレギュ。
 なんだかもう吃驚しすぎて声も出ない私をちらりとも見ずに、彼は「インセンディオ」とやけくそ気味に叫んだ。







「レ、レギュラス君、どうしたの私でよければ話聞くよ?」

 パチパチと燃える封筒に我に返った私。
 ブラック家の子息様のあんなお姿を他の寮生の前で晒すわけにはいかない。使命感に駆られた私は、幸いにも誰もいなかった談話室のソファにレギュを強引に座らせた。もちろん隣には私が座る。

 できるだけレギュの神経を逆撫でしないように、と普段使わない君付けなんぞを使ってみる。
 そしたら何だかレギュの顔が微妙なものになった。あれ?

「レイシア」
「な、なに?」
「何その、君とか気持ち悪い」
「ひっど!」
「普通に呼べばいい」
「おっけーレギュ! レギュレギュ!」

 調子に乗って何回も連呼してみる。レギュがまた複雑そうな顔で口を開いたので私はぴたりとそれをやめた。やばい怒られる。
 ごめんね! と言う準備をして待っていると、レギュは

「なんでレイシアなんだろう」

 と言って、本当になんだかわからないけれど笑った。
 鼻で笑うんじゃなく。微笑んだっていう言葉が、ぴったりあてはまる感じの。

「ど、どうしたのレギュ」

 私が思わずそう声をかけると、はっと表情が変わった。さっき封筒を呪文で燃やした時と同じ(少しマシだけど)険しい顔。

「家から手紙が来たんだけど」
「あ、うん」

 レギュの不意をついた笑顔について聞いたつもりだったけれど、彼は封筒のことだと思ったらしい。

 手紙。なんとなく予想はつくけれどね。
 レギュもそう思ったのか、落ち着いた様子で肩を竦めた。

「シリウスよりもいい成績をとれだってさ」
「……レギュ頑張ってるのに」
「でも兄さんのほうが結果的に上なんだから仕方がない」

 ふーん、と私は言った。だって他に何も思いつかなかったから。
 レギュのお兄さん、シリウスは学年次席。レギュは惜しいことに学年で上から3番目だ。ちなみに私は下から3番目だ。えっへん。

「そもそも学年が違うのに、いい成績とか比べられなくない?」

 私がそう首を傾げると、レギュはぱちくりと瞬きをした。
 レアだ。可愛い、レギュ可愛い! 心の中できゃーきゃー騒いで、でも私はぐっとこらえて平静なふりをした。だって言ったら怒られる。

 するとレギュは苦笑して、ぽんと私の頭に手を載せた。

 え。
 え?

「ありがとうレイシア、なんかすっきりしたよ」
「へ? 何もしてないんだけど」
「それでいいんだ」

 何もしないのがいいのか。
 ちょっとだけ考えて、普段彼にまとわりついている女の子たちのことを思い出した。あれやこれやと世話を焼きたがる、悪く言えばおせっかいな子たち。

「ふーん」

 何もしないほうがいいのか。
 あの子たちも可哀想になあ、と私は思った。

「ま、」
「ん?」
「あんまりお兄さんのこと馬鹿馬鹿言っちゃだめだよ」
「本当のことを言ってるだけだ。あのチキン馬鹿。成績しかよくないし」
「(チキン馬鹿……)成績だけじゃなくて、えっと、他にも……」

 スリザリン生によく呪いを掛けてくる、レギュと似たような目鼻立ちの、でも全然似てない男。

「か、顔とか……」
「さっさと家を出てホストでもやればいいのに。絶対天職だ天職」

 苦し紛れの答えもふんっと鼻で笑われて、少しだけお兄さんに同情した。見てる限りだと、お兄さんはレギュのことをちらちら窺ってるようだったから。

「あんな馬鹿のことはどうでもいいんだ」
「あ、あはは……」

 うわあ本当に酷い言われようだ。キライとかよりどうでもいいのほうが酷いと思う。

「レイシアがいればいいよ」
「あはは、そっか……」

 ……ん?
 あれ、ちょっと待って。


なんか、今


ものすごい台詞聞いたような気がする。





「じゃあ寝るから。おやすみ」
「……え? ちょっとレギュ」
「おやすみ」
「え、さっきの……」
「お・や・す・み」
「……ハイ、おやすみなさい」



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