「それじゃあ、ミーティングを始める。全員揃っているね」
「っス!」
「はい」
「あー、ねみー」
「ん、いるよ〜」
「今日は手早く終わらせるのだよ」

なんだろう、この状況。
目の前には個性も髪色も様々なバスケ部の人たちがずらりと集められている。
私が居る場所は誕生日席、とでも言えばいいのだろうか。
彼らを一望できる位置にいながら、背後の声が続ける。

「今日は練習メニューの改善をしようと思う。何か案があったら言ってくれ」
「あの、赤司くん」
「なんだいテツヤ」
「案ではないんですけれど、その…彼女について訊いてもいいですか」

おずおずと彼が手のひらで指し示した先には、私。
彼らは全員男子だから「彼女」といえば当たり前だ。
言い出してくれた彼には申し訳ないのだけれど、私自身もどうしてこの場所に居るのか分からない。
むしろ教えてほしい、と振り向けないまま私を連れてきた背後の赤司くんに念じた。

「僕が彼女を連れてきたのはテツヤも見てただろう。何か問題があるかい?」
「いえ、あの…はい」
「そいつ赤司と同じクラスの奴じゃねえの?見たことあるわ」
「で、そのクラスメイトの子がなんでミーティングに参加してるんスか?」
「僕が連れてきたかったから」
「…はあ。そっスか…」
「あの人気モデルが反応に困ってんぜ」
「オレは別にどうでもいいや〜」
「気にしても仕方ないのなら、気にしないのだよ」

ポテチ食べる〜?とやたらフレンドリーな長身の人に丁寧に断りを入れて、私は再び縮こまった。
赤司くんに声を掛けられて、腕を引かれて、この席に座らされて、その間ずっと緊張しっぱなしだ。
本当に理由が分からない。
赤司くんとは普段話さないし、一度日直を一緒にしたことがあるくらいなのだけれど。
完全に部外者である私を(おそらく)彼の席に座らせて、赤司くんはその後ろに立っている。
すぐ真後ろで彼がはっきりとした声を響かせる度に思わず肩をびくっとさせてしまうのだった。

「そいつ顔色悪くね?」
「ボクには冷や汗を流しているように見えます」
「そうなのか?大丈夫かい」
「あっ…う、だだ大丈夫です、ホントに!」
「明らかに大丈夫に見えないっスけどね」

不意に赤司くんに顔を覗き込まれ、情けない声で何とか返事をすると「なら良かった」と再び赤司くんが見えなくなる。
私の真後ろで姿勢良く立って話をしているのだった。
紫の人は始めから話より手元のお菓子に夢中みたいだし、緑の人は逆にミーティングの内容にしか興味がないらしく静かに眉間に皺を寄せている。
残り三人は、未だに私のことをしげしげと見ては質問を続けた。

「そもそもこの子、誰なんスか」
「だから、僕と同じクラスの女の子」
「そうではなくて、赤司くんとどういう関係なのかを教えてほしいです」
「彼女かよ」
「いや。違う」

きっぱりと言い切った赤司くんに、ますます三人が不思議そうな顔をする。
それはそうだ。
私だって彼女の部分については心中で「滅相もない」と全力で叫んでいた。
赤司くんが言うように、私と彼の接点は同じクラスということだけだ。
そして先ほどから気になってしょうがないのは、赤司くんが話の片手間に私の頭を延々と撫でていることだった。
時々、髪を梳くような動作も入る。
三人がてっきり、という顔をするのも当然だ。

「赤司くん、彼女が緊張しているように見えます」
「あ、嫌だったらやめようか」
「べ、別に平気ですっ、どうぞご自由に!」
「だから平気って顔じゃないっスよ」

赤司くんがちらりとこちらに注目する度に私は声を張り上げなくてはならない。
しかも、さっきから思ってもいないことばかり言ってしまう。
大丈夫でも平気でもない。
ぜえぜえと疲れからくる息遣いをすると黄色の人が少し憐れむような目をした。
先ほどから彼のツッコミは的確だ。助けてください。

「なんだか、埒が明かないので」

話を区切るような声に、みんなの視線が集まる。
敬語で喋っていて、始めから割と私を気遣ってくれている人だ。
全く動揺を見せない様子だけれど、本当は私と同じく困惑しているのかもしれない。
この質問ならどうだろう、という表情をして私の後ろの赤司くんを見ている。

「赤司くんは彼女をどう思っているんですか」

どう、って。
少し拍子抜けしてしまった。
そんなのは決まっている。
私と赤司くんはただのクラスメイトなのだから。
でも、ならばどうして私は彼に連れられてきたのか。
思わず視線を上げたくなるものの、相変わらず頭を撫でている手も気になってしまう。
その手つきがふと止まり、赤司くんが私の髪を少しだけ掬って、指先で弄ぶ感覚がある。

「分かってると思うけれど、ミーティングは雑談とは違う。部活の一環であり、僕はそこで主将として意見を統率する役目がある。考えを出したりまとめたりと、人並みに気疲れもする。それで、彼女がこの場にいたらどれだけ僕の気が楽になるだろうって思った」

澱みなく話す赤司くんの声に全員が聞き入っている。
それは私も例外ではない。
思わず、途中から顔を上げて赤司くんを凝視してしまっていた。
視界の端で彼らが揃って、それで?と促すような表情をしている。
赤司くんは言葉を切って、視線を私に落とした。
不意に見つめ合う形になり、息が詰まった私は目を逸らそうとした。
それは、やんわりと赤司くんが私の肩に触れた手によって阻まれる。
笑みを浮かべているようにも見える表情で、赤司くんは彼らにではなく私に向けて言った。

「要するに、君は僕の好きな人」

驚く声すら出ないまま、私はぽかんとしてしまう。
なんで、と尋ねたところで、赤司くんは同じ答えを繰り返すような気がした。
好きだから、と。
急速に熱くなる頬を赤司くんの手のひらが撫でて、彼は楽しそうに笑っている。
青い人が「このタイミングで告白かよ」と呆れたように言った。
まったくその通りだと思った。

20121103
この人も攻め方ズレてそう
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