私にとってモンローさんは太陽そのものだったのだ。
そして私を含めた孤児院の子供たちは皆一心に太陽を仰ぐ、向日葵のようだったに違いない。
一度捨てられたはずの命を拾われたヤンとデリコはモンロー組の傘下に加わった。
それが彼らにとって、最良の恩返しの形だったんだろう。

最低級の「D/5」であり、頑丈と言えるほどの肉体も持っていなかった私は、黄昏種のための小さな孤児院を設立した。
もちろんこの年でそんなことを成し遂げるにはモンローさんの資金援助がなければ不可能で、私はいつまでもあの人の前では子供だったけれど、これが私にとって最良の恩返しだった。

初めはモンローさんの真似事でもいい。
路頭に迷う子供を、あの時私たちがしてもらったように家族として迎えて、ひとりぼっちの黄昏種をなくしたい。
私が語った無謀な夢は、さすがにモンローさんに苦笑いをさせたけれど、その横に控えていたデリコが幼い日のように微笑んでいたのを覚えている。
その思いの片隅には、遠い昔に攫われてしまったエリカという女の子がいた。

私の家族であり、友達だった女の子。
デリコが笑うと本当に兄妹はそっくりで、彼は諦めていたかもしれないけれど、私は彼女が生きている今を想像した。
喧嘩して泣き出した子供の頬を拭いながら、大量の洗濯物を干しながら、孤児院の全員でいただきますの挨拶をしながら。
私は孤児院の子供たちにデリコとエリカの影を見出していたに違いない。
私がどれだけ子供を連れてきても、あの日のエリカは帰ってこない。
それでも、これが正しいことだと信じて働かなければ、モンローさんに顔向けできないのだ。
たまに面映ゆい表情をして、孤児院に顔を出すデリコのためにも。
そう信じて、やってきたことだったのに。


「名前!」

デリコが真っ青な顔をして孤児院を訪ねてくるのは初めてだった。
仕方のないことだ。
半壊した孤児院の建物の中で、おそらく今も息をしているのは私しかいない。
昨日まで笑っていた子供たちの、死体、死体、死体。
どこに目を向けても死体しかなかった。
私が待ちわびたエリカは生きていた。狩猟者となって。
黄昏種の巣窟だという理由で、小さな男の子と一緒に私たちを殺しに来た。
彼女は私のことを覚えていなかった。
道端にいる猫を蹴るかのように、私の腹に長い剣を突き刺して、私が守りたかったものをすべて殺してしまった。
どこから、報せが行ったんだろう。
駆け寄ってくるデリコを見て思った。

「名前、名前…!」

膝をついたデリコが私の頬に触れる。
熱いな、と感じるくらいに私の体は血液が流れ出して冷たくなっていたらしい。
私の腕の中にはオッドアイの男の子がいて、最後の最後まで守ろうとしたのだけれど、先ほど息絶えてしまったらしい。
エリカへの愛情も、狩猟者への憎悪も、何もかも捨てられない私は半端者だ。
デリコの姿を見て、よりいっそう思った。

「名前、いやだ、死なないでくれ」
「……デリ、コ」

私がなんとか絞り出した言葉を、デリコは聞き逃すまいとした。
あばら辺りから下の、体の感覚が消え失せている。
上半身はひどく痛むのにどこかぼんやりした意識で、息をするたびに変なところから空気が漏れる音がした。

「…エリカ が、いき、てて、よかっ た」

デリコが泣きそうな顔をしている。
けれど先に泣き出したのは私のほうだった。
本当は、エリカの顔を見た瞬間にそう叫びたかったのだ。
私の言葉は彼女の剣によって、あえなく切り裂かれてしまったけれど。
デリコが拾ってくれたら、いつか彼女に届くかもしれない。
私は薄情者だ。
彼女を憎みきれず、彼のことを愛していて、幼い日の影をいつまでも追う。
でも、そんな生き方でも私はまっとうしたよ。
恵まれていて、幸せで、楽しかったよ。
私の体を痛いくらいに抱きしめるデリコに伝わればいいのに。
だからそんなに泣かないで。

20151006
グレイシア/KulfiQ
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