(二人のあいだに子供がいるので注意)

「かつきくんはおかあさんのどこがすき?」

目の前でクレヨンでぐちゃぐちゃと得体の知れない絵のようなものを描いていたそいつが、何の前触れもなくそんなことを言ったので、まず出てきた言葉は「あ?」だった。
そいつの関心はすっかり絵を描くことから俺に移ったらしく、頬杖をついてこちらを期待した様子で見上げている。
このぽよぽよで常に突拍子でやたらと笑うところばかり母親に似た奴は、俺の娘だ。
髪や瞳の色は俺に似ているかもしれない。
お父さんと呼ばれるのはどうにも違う気がして、勝己と名前で呼ばせている。

「どこって……」
「おしえて!」
「……」

そんな、本人にも言ったことがないものを軽々しく口にできるか。
そう思った矢先、台所から皿洗いを一時中断する音が聞こえてきて、名前がすすすと隣に来た。
にこにこと笑う奴らに挟まれて、なぜかいらっとしたので名前の頭をわっしと掴んでぶんぶん振ってやった。

「や、やめてかっちゃん〜」
「うるせえ。聞きに来てんじゃねえよ」

乱暴に見えるかもしれないが、俺がこういうことをしても名前はどこか楽しそうなので、娘も日常茶飯事として俺らのことを見ている。
名前は他の女よりよっぽど我儘を言わない方だと思うのだが、俺の本音を聞きたいという気持ちは人一倍あるらしく、面倒くせえと思わなくもない。

「ねー、どこがすきなのー」

横からは娘がしつこく聞いてくる。
挙句俺の服をぐいぐいと引っ張ってくるので始末が悪い。
両方を黙らせるべく、俺は正直な気持ちを言ってやった。

「こういう図々しいところ」

ぽかんとした顔は、やっぱり親子そっくりだ。
しかし大きい方が、意外そうに頷く。

「私、図々しいところがいいんだ?」
「うぜぇけどな」
「そう。かっちゃんありがとうね」

私にも、この子にも付き合ってくれて。
そう言って我が子を嬉しそうに抱き寄せる名前の表情は母親で、俺は仕方なくその頭を撫でる。

20150816
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