今日ばっかりは私は清楚でおしとやかな女の子。
普段存在を主張しまくっている金色の髪は限りなく黒に近い焦げ茶にして、ピアスとマニキュアとアクセサリーは家に置いてきた。
折っていたスカートを控えめな丈にまで戻して、タイツをソックスに変えて指定外のカーディガンを脱げばもう完璧。
校則違反してませんアピールを全身でしている私。
校門で仁王立ちをする生活指導の先生に笑顔でおはようございますと挨拶しながら内心では「服装検査滅びろ」と吐き捨てている。
窮屈でダサい格好は入学式と卒業式だけで十分だ。
そう思っていても反省文や説教はもっと嫌なので、毎回こうして検査をクリアしている。
つるんでいる不真面目仲間にすら「お前の変わり様ハンパねえ(笑)」と言われるほどの私の擬態はなかなかに疲れる。
さっさとトイレで着替えて化粧したい。
髪は明日染め直そう、と思っていたら私の腕をぐっと掴む手があった。
軽く引っ張ってみたけれどもびくともしない。
…んん?

「なーに逃げようとしてんだべ」

振り返ると、怖そうな先輩が立ってこちらを睨んでいた。
金髪で襟足が長くて制服の下にパーカーを着込んでいる。
私は思わずさっき通り抜けたばかりの校門を見た。
校則違反の塊みたいな人がすぐそばにいるのに、生活指導の先生はなぜ取り締まらないのか。
ぽかんとしていたらまた強く腕を引っ張られて怖い先輩と向き合う形になる。
背、おっきいな。
だべって言ったのは方言かな。

「おいよそ見すんなや」
「…はい」

何なんだ今日は厄日か。
いつも通り服装検査を切り抜けられると思っていたのにガラの悪そうな先輩に目をつけられて、先生はおろか周りの生徒の誰も助けてくれない。
むしろ朝の昇降口前という混雑する場所だというのに避けて通られている気がする。
私をじとっと不機嫌そうに眺める先輩が、私の襟首をぐいと引っ張った。
殴られる、のかな。
何も悪いことしてないのに。
今日ばっかりは清楚でおしとやかな女の子を演じてるのに。
ぎゅっと目を閉じたあとに、恐れていた衝撃や痛みはなく代わりにプチン、と小さな音がした。

「シャツは第一ボタンまで、だべや!」

おそるおそる目を開けると、背の高い先輩が身をかがめてやりにくそうに私の襟首のボタンを留めていた。
あ、ワイシャツ。うっかりしてた。
そんなことより、彼の二の腕に「風紀委員」と書かれた腕章がある。
有り得ない。この校則違反だらけの先輩が風紀委員?
私のクラスにいる、成績優秀で制服をきっちり着こなし、休み時間は静かに読書をするあの風紀委員と、同じ?

「あ、す、すみません…」
「わかったんなら、よかんべ!」

素直に謝った私の肩を叩き、けらけらと笑う彼の口から八重歯が覗く。
野性的な見た目をしておきながら人なつっこそうに笑う人だ。
そのまま私からすいと離れ、校門近くに戻る道すがら「あんな、」と言いかけて先輩は振り返った。

「おめぇ、顔カワイイんだべから、普段からそゆ格好しとけ」

ケバいのは好みでねぇ。
そう言われて意地悪く舌を出した先輩に、私は羞恥心やら何やらで顔が真っ赤になった。
どうして普段の私を知ってるの、とは言えずに手のひらをぎゅっと握る。
あなたにだけは言われたくない!

20140417
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