透けているような、と何とも曖昧な言葉が彼に向けて浮かぶのにそう時間は掛からなかった。 これは透明という意味合いでもましてや存在感が薄いという意味合いでもない。 彼は透明とは程遠い黒髪と時に大きくなる声、そして常に機嫌が悪いような表情を持ち合わせていた。 そういった全ては彼が友人たちと話しているときに気付いたもので、最初は仲がいいんだなぁと思った。 しかしある程度眺めていると、彼らは仲がいいのか悪いのか分からないような、そんな些細なことはどうでもいいと思わせるようなゆるーい空気を纏っていて、惑わされるのだ。 仲がいい、のか。 私からは判断しかねる。 「おい、平介」 その尖った響きの声を聞くと、ついつい振り向いてしまう。 私は彼の言う、へいすけくんではないというのに。 特に何もせずとも不思議と周りに人が多い彼、ではなくその人を起こそうと声を掛けている鈴木くんに目が向かう。 鈴木くんがうたた寝しているその肩を揺さぶるのに対して、もう一人の背が高い子は楽しそうに眺めているだけで起こす気はなさそうだ。 あの三人は気付けば一緒に居る、なぁ。 常にぴったり連れ添うでもなく、しかし三人一緒の姿は結構見かける。 不思議で、相変わらずゆるーい人たち。 「おい起きろ、俺まで遅刻させる気か」 次が移動教室のせいか、人はまばらだった。 何やかんや必要でもない片付けをしながら彼らを観察してしまう私も変わっている。 鈴木くんが下を向くと癖のない黒髪がさらりと流れる。 あ、と声が出そうになった。 窓際からの日に透けて、細くて女の子みたいな髪がきらきらした。 うわあ、触ってみたい。 そう思ったけれど、これは多分、恋愛感情とかときめきとかではない。 鈴木くんという存在が何故か私には物珍しく、気になるというだけの話。 あんなに彼を叱る声は大きくて、真面目そうに見えて割と動作は緩慢で、それでも鈴木くんは、やはり、透けているのだ。 「ああくそ、こいつ無理やりにでも連れてくぞ佐藤」 「頑張れ!」 「いや手伝えよ!」 二人がかりで足を引きずりながらも運ばれていくへいすけくんは傍から見れば具合が悪い人のようだ。 実際は気持ちよさそうによく眠っているだけなんだけれど。 そのとき、鈴木くんの細くて鋭い目とぱちりと目が合ってしまった。 「お前、さっきからこっち見過ぎだろ」 「…うん、すみません」 「いくらこいつが珍しいったって」 言うなり鈴木くんは未だ眠りこける彼の頭を容赦なく叩いた。 仲がいい…のだろうか、最早分からない。 それだけの会話を交わしたきり、三人はえっちらおっちらと教室を出て行った。 私も思い出したように荷物をまとめ、足早に彼らについて行く。 急がなければ遅刻してしまうだろう。 それにしても、今のが鈴木くんとの初めての会話だったなんて、そんなまさか。 「…しかも否定できなかった」 授業が終わる前からさっきまで、私がずっと見ていた人は鈴木くん、あなたなのだけれど。 ライトクリスタライズ 20110708 |