「え〜!マジですげー贅沢な感じする!ここオレの特等席〜」

はしゃいだ声を出す和泉に、私は思わず笑みをこぼした。それをちゃんと拾い上げて、彼はますます嬉しそうな顔をする。
よかったら、誕生日に私の車でどこかに行かない?
そう提案したのは本当に軽い気持ちからで、普段バイクを乗り回している彼だったら、誰かの助手席より自分が運転をしたいかもしれないな、と思っていたのだけれど。和泉は、ぽかんとした顔からみるみるうちに目をきらきらとさせて「行く!」と大きな声で返事をした。
誕生日当日、約束の時間に車で迎えに行くと、明らかに待ちきれずそわそわとしている様子の和泉がいた。バイクに乗る時はブルゾンを好んで身につける彼が、今日はラフなマウンテンパーカーを羽織っている。そういう違いにも胸をくすぐられるような気持ちになって、私は助手席のロックを外して、彼に声を掛けたのだ。
和泉は、最初こそシートベルトを締めてきちんと座っていたが、最初の赤信号で停車した時から、窓枠に頬杖をつき、こちらを向いている。私は前を向いたままだけれど、横からの熱い視線をすぐに感じ取った。

「今日の目的地はどこですか?おねーさん」
「ひみつ」
「えー?教えてくんねぇの?ま、それが楽しみなんだけど」

おどけたように敬語を使ってみせるところに、和泉が高揚していることが伝わってくる。私はつられて微笑んだあと、彼の視線が相変わらず窓の外ではなく私に向けられていることにむず痒さを覚えた。

「私が運転しているところなんて見て、楽しい?」
「楽しいっつうか、好きだよ。いつもこうやって運転してんのかなー、って思う」
「…それはどうも」

不意に告げられた「好き」の一言に、一気に照れ臭くなってしまう。年下の恋人の彼に、私は言葉で勝てた試しがない。少しだけウィンドウを開けると、ひんやりとした風が熱くなった頬を撫でていった。

「和泉は、乗せてもらうより乗せるほうが好きだと思ってたよ」
「ん?そりゃまー…、二人乗りの時にぎゅってくっつけんのもいいけどさ。こうして横顔をじっくり見れんのも、サイコーじゃん?」

なんて甘ったるい台詞なんだろう。次の赤信号で停まったら、ちょっとばかり苦言を呈してやろうと思った矢先、和泉は言葉を重ねてきた。まるで、恥ずかしがってストップをかける私の心のうちを読んでいたみたいに。逃がさないとでも言いたげな、低く耳を打つ声音。

「だからさ。オレ以外の奴、あんまり乗せないで。妬けちゃうから」
「…心配しなくても、こんなふうにするの、和泉だけだから」
「ん。その返事が最高のプレゼント」

たまに言ってみせるわがままは、ほんの些細なお願いの範疇で、本当に私を困らせるようなことは決して言わない。一年に一度の特別な日なんだから、もっと欲張ってほしい。たとえそう告げたとしても、私といられるのが一番だと、綻ぶように笑うのが彼だった。
きっと目的地に着くまで、和泉は私のことを楽しげに見つめているんだろう。じわじわと胸を温かくする愛おしさを覚えながら、私はハンドルを切った。

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