「あなたのそれは、恋ではないのだと思います。私たちの年頃にはよくある、憧れや興味といったものかと」

申渡くんの口調は落ち着いていた。凪いだ海のような声色。まばたきの音すら聞こえてきそうな、静かな瞳。その口元には、常と変わらない穏やかな笑み。
だから、だろうか。私は告白をして失恋した──正確に言うならば、この恋心を否定された──というのに、胸が少しも痛まなかった。申渡くんの言葉を決して聴き逃すまいと、私は自分の神経が研ぎ澄まされていくのを感じた。

「あなたが伝えてくれた気持ちは優しいものです。綺麗なものです。眩しいものです。…それが、恋であるはずがない」

最後のほうだけ、申渡くんの声が震えた。静かだった瞳が揺れる。彼の手のひらが持ち上がって、自身の胸元をぎゅうと握りしめた。心臓の在り処、そこがひどく痛むのを堪えるかのように、服に皺が寄るのも構わず、彼は手のひらに力を込めていた。
ああ、その仕草だけでも、私は彼を愛おしいと思う。その手のひらに触れられたらと思う。けれど、駄目だ。今の彼は苦しんでいる。私が告白をした時から、苦しそうにしている。たとえ表情に出ていなくても分かる。ずっと彼のことを見てきたのだ。彼が、本当なら口にしたくないことを話していると、伝わってくる。
それでも、私は彼に恋心を打ち明けずにはいられなかった。彼と特別な関係になりたかったから。私は、私の気持ちと彼の気持ちが同じであると、伝えたかったのだ。

「私はあなたの気持ちを受け取ることはできません。…恋とは、もっと醜いものですよ」

自分と私は違うのだと、彼は笑う。けれど、私は恋にまつわる嫉妬や不安、苦しさを同様に知っている。あまりにも優しくて、少しだけ分からず屋の彼だからこそ、私は申渡くんを好きになったのだ。

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