! グロテスクな表現あり



抹本が死んだ。
今までに見てきた仲間のなかで、一番無残な死に方だった。
虫のようにたやすく頭を潰され、顔の判別などできるはずもなかったが、外套やその細い体躯、辺りに散らばっている救急箱の中身などが彼が誰であるかをまざまざと物語っており、死んだ彼を見つけた私はその場にぼうっと突っ立ってしまった。

「まつもと」

掠れた声は、自分のものであるはずなのに聞き慣れなかった。
死体の指先はぴくりとも動かない。
その細くて白い指先に見覚えがあって、頭がくらくらする。
彼が私に包帯を巻き、できたよと言って手を離す時に何度も見つめた指先だ。
屋敷に帰ると、いつも控えめに笑って出迎えてくれた抹本。
前線に出ることはほとんどなく、私にとって彼は怪我を負う側ではなく怪我を治してくれる側だった。
今回の任務では怨霊化が進んだ亡者がひどく暴れており、獄卒たちにも頻繁に負傷者が出た。
その負傷者を出張して手当てする任に当たったのが抹本だった。
自分の心臓がやけに早く鳴っている。
目の前の死体は、本当に抹本か?
よろよろと死体に歩み寄ったあとに、私は力なく座り込んでしまう。
飛び散った血液と脳漿の合間に、黄緑色をふたつ見つけた気がして、それからはよく覚えていない。

抹本が死んだことにより、任務はさらに難航した。
獄卒のなかに負傷者が多く出て、リコリス総合病院へ運び込まれた。
薬師を失った病院のほうも出来ることが限られて、たくさんの人が混乱し、大声を出していて、まるでこの世の終わりみたいだった。
とても大げさに聞こえるけれど、私はそう思ってしまうくらいには心細くて、抹本が寝かされている病室の外でいつまでもうずくまっていた。
抹本。はやく、早く起きて。
私の小さく呟く声はなかなか聞き届けられず、抹本の頭部が再生して起きあがれるようになるまでは相当な日数を要した。
抹本の死体を一番に見つけたのは私だったが、目を覚ました抹本のそばにいて一番に声を掛けたのも私だった。
彼が黄緑色の瞳でこちらを見つめて、私の名前を口にしたときに泣いてしまいそうになった。
私は駆け寄り、抹本に飛びついた。
彼は困ったように笑っていた。
もう二度と抹本をこんな目に遭わせたくない。
私はその思いでいっぱいだった。
彼を抱きしめる腕に力をこめながら、そのことを伝えると、抹本は優しく背中を撫でてくれた。
そして、こんなことを言った。

本当はね、死ぬ前にもっと抵抗できたんだけれど、あそこで諦めてしまってよかった。
勝ち目がないのは分かっていたし、俺が殺されたら、みんながあの亡者の危険性に気付いてくれるんじゃないかって期待したんだ。
なにより、君にこんなに心配してもらえて、俺はしあわせだよ。

その言葉に、またもや心臓が早くなる。
私はこの先、どんな仲間の死を見ても、抹本の無残な死に様を思い出すだろう。
何日も彼の目覚めを願うあまり、私の頭の中は抹本で埋め尽くされていて、他はすべて抜け落ちてしまっていたのだ。
まるで呪いのような恋をしてしまった。
その自覚はあったが、待ち望んだ笑顔の抹本を前にしては愛しさばかりがこみ上げる。

「抹本」

吸い寄せられるように、その唇に自分のものを重ねた。
彼が拒むということはなく、しばらくして少し離れると、抹本は黄緑の瞳を嬉しそうに細めていた。

「これで君は俺のものだね」

20160906

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