お前の笑顔ってまぶしいよなあ。そこが好きだよ、とあなたは笑って言った。 窓際の席で金色の髪を夕陽に透かしながら明光が、それこそ私が霞むくらいに愛おしそうにはにかむから、私は言葉を忘れて見入ってしまった。 私も、だなんて軽々しく言えなかった。 頬杖をついたまま彼は黙り込んで私を見て、少し得意気に唇の端を上げた。 「悔しそうな顔、してる」 「だって、いま私がそれを言おうと思ったのに」 「また?俺たちって、考えること一緒なんだな」 明光は柔らかく言うけれど、本当は全部分かってやっている気がする。 思ったことをすぐにそのまま言葉にしてしまうのは彼の長所だと思う。 短所だとも、思う。 きれいな髪が好き。 優しく触れてくる指先を嬉しく思う。 一生懸命なところが、何より好き。 私が明光にそういう感情を思い浮かべるたび、それを言葉にするのは決まって私ではなく彼だった。 まるで心と心が通じているよう。 けれど、私は嬉しいと思うよりもどかしいと感じてしまう。 それらの言葉はあなたより先に、私が明光に伝えるはずだったのに。 悔しさに近い感情を以てして、私に愛を囁いた明光をじっとりと見やると、必ず明光は笑った。 嫌みのない、少し得意気な、してやったという顔。 だから私は彼を怒ることができない。 もとから、怒る道理もないのだけれど。 「帰ろう。家まで送るから」 「部活は?」 「今日はオフ」 私はそこで、明光の目を見た。 あの厳しい練習で有名な烏野のバレー部にオフなんてあっただろうか。 一瞬疑念が頭を過ぎったけれど、目の前で鞄を手に私を待つ明光の瞳はいつもと変わらず澄んでいる。 だから詮索はしないと決めて、私も席を立つ。 「そんな、一緒に帰るたびに律儀に送ってくれなくてもいいのに」 「いや、駄目だ。だって俺、お前の彼氏だから」 「はいはい」 大真面目な顔で言う彼を軽くあしらうのは、ほんの少し気恥ずかしいから。 私たちが出てしまえば完全に無人となる、空っぽの教室のドアを閉める最中、明光がぼそりと言った。 「なんだか今日は、逃げたい気分なんだ」 私はただ黙って、扉を閉める明光の背中を見つめていた。 聞こえなかった振りをした。 そうでなければ、こちらを振り返っていつも通り笑う明光の精一杯の見栄を台無しにしてしまうと思った。 明光はきれいに笑う人だ。 きれいで優しいひと。 私がどんなに頑張っても彼のようにはなれないと、たかが十代で悟ってしまうような性格の、ひと。 優しい人ほど損をする、なんてどこかで聞いた覚えがあって、ふと頭に思い浮かんだその言葉を私は信じないことにした。 私に向けて手を差し出して、柔らかく手を引く明光の横顔を見つめて思う。 こんなにも優しいひとが損をすることなく、健やかに笑って生きていければいいのにと、たかが十代の身で、願う。 20140502 |