休み時間にいつも寝ているあの子にちょっかいを出したい。
そのようなことを嬉々として言えば、ほっといてやりなさいよと友人から冷めた一言をもらった。
私は彼女が言うのも聞かず、窓際の席で机に伏せっている男の子に目をやった。
春夏秋の間は隙あらばゲームをしている彼だが、冬の間は電池が切れたように眠っていることが多い。
長めの髪に隠れて表情は見えないものの、窓だけを閉めてカーテンを開けてあるその場所は冬でも陽当たりが良く、ぬくぬくと気持ち良く眠っていると想像できた。
季節を問わず休み時間は騒がしくしているのが常である私は気ままな彼に興味津々であり、一つ前の席を借りてそこに座った。

「おーい、あんま研磨にちょっかい出してやるなよ」
「わかってるよお」

クラスの男子の呆れ声に適当な返事をする。
そばで大きな声が響いたからか、目の前の寝姿がもぞもぞと動いた。
ゲームをしている間は邪魔できないからと、今まで見つめてこなかった頭頂部を眺める。
傍目から見ても分かる割合で黒髪が金髪にせり出している様は、いっそ清々しいほどのプリン頭である。
好奇心が勝って、そのつむじを指先で軽くつつけば、うずくまっていた背中がびくりと揺れたのちに頭を上げる。

「おはよう、こずめくん」
「うん……うん?」
「ぼーっとしてるね。こずめくん、よく寝てたよ」

起こしたのが私であるとは言わず、眠そうなこずめくんを見つめた。
何度か目を瞬かせたあと、目尻をぐいぐいと手の甲でこする様は猫が顔を洗うようだ。
微笑ましくなって、私はふふと笑った。
こうして窓辺でのんびり過ごしていると、同じ教室内とはいえ騒がしい中心部とは時の流れが違うような気がしてくる。
なんとなくそんな気分になった私とは違って、きっと彼の体感する時間は本当にゆったりしているのだろう。
運動部らしい覇気を持ち合わせていないところが、私からすれば好ましい。
船を漕ぐように頭を揺らしていたこずめくんは、私がいることを今初めて認識した、といった様子で口を開いた。

「……名字」
「なに、こずめくん?」
「名字の言う孤爪って発音、なんか変」

彼が発した彼自身の名前は、確かに私が言うものと感じが違っていた。
私が言うものはもっと、音が濁ったように聞こえる。
今まで誰も指摘してくれなかったことを本人に直されるというのもなんだか申し訳なくて、こずめくんにつられて首をひねった。

「あ、そう?こずめ……こづめ?かな?」
「研磨でいーよ。ややこしいから」

何度か言い直していたら、彼はタオルを取り出して簡易まくらを作りながら言う。
私は驚いて、こずめくんの顔を下からまじまじと覗き込んだ。
逸らされる、視線。
けれどそれは反射に近い行動で、私を疎んでいる様子には見えなかった。

「研磨って下の名前だよね」
「そうだよ」
「私が呼んでもいいの?」
「別に…部活のみんなはそうやって呼ぶし」
「研磨くん?」
「なに」
「研磨くん!」
「うん。…じゃあ、おれ眠いから。おやすみ」
「おやすみー」

目の前でタオルに顔を押し付け会話を中断した彼を見やる。
彼は一人で眠ってしまい、取り残されたけれども寂しくはなかった。
その寝姿はさっきよりも安定していて、授業開始時刻まで起きないという決意が見て取れた。
私は頬杖をついて金と黒が入り混じったあたりの頭を見下ろした。

「研磨くんは私を喜ばせるのがうまいなあ」

別に私を喜ばせる気はなかったんだろうけれど、実際表情が緩んで仕方ないのだ。
彼からすれば、誰にどんな風に呼ばれようがきっと些細なことで、遠ざけられていないと分かっただけでも私はご機嫌だった。
私を呼ぶクラスメイトの声に席を立つ。
軽やかに離れていく私を、片目を開けて鋭く見つめる瞳には、気付けない。

20140225
「こずめ」間違いは日向リスペクト


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