▽信号は赤(140字SS)

信号は赤になった。
助かった。
彼が立ち止まったからだ。
彼はいつだって大股で歩くから、もしも青信号のままだったら追いつけないほどの距離が生まれていたに違いない。

「爆豪くん」

私の声音は、待ってよと言っているようなものだった。

「おっせぇよグズ」

彼は優しくない。
けれど赤信号は渡らない。

(かっちゃんは素行悪いけど信号無視しなさそうってだけの話)


▽無神経はどっち

「俺のクラスにお前より乳でかい奴山ほどいるわ」
「へー!でも世の中のほとんどの人はかっちゃんより優しいよね!」
「……」
「いひゃい」


▽はじめてデート

待ち合わせ場所に着いてから彼氏が質問攻めをしてくる。

「その髪どーなってんの」
「靴歩きにくくね?」
「それ寒いだろ」

あれこれ言うから、何にも分かってないんだなぁ、って呆れちゃう。
私が振り返ると、彼は心底怪訝そうな顔つきをした。

「かっちゃんのためにオシャレしたんだよ!」

時間かかるし、疲れるし、大変だけど。
全部かっちゃんのためなんだよ。
可愛いって、思ってほしいんだよ。
本音を吐き出せば、彼はぐっと黙り込んで、隠し切れない赤が頬に浮かぶ。

「頼んでねーよばーか」

どうしたって素直にはならない。
だけど彼が私を追い抜かす瞬間に手を取って、指を絡めて歩き出すから。
これは可愛いって思ってくれたんだって勝手に解釈してしまうんだ。


▽140字SSその2

爆豪勝己は自覚しているより素直な生き物である。
懐けば撫でろと頭を差し出すし、顎を撫ぜても噛みつかない。
とまあ、ここまでは物の喩えなのだが、実際獣じみている。
接吻の折に首筋を噛んでいくことも多い。

「バクゴー、痛い」
「うるせえ」

抗議の声は独占欲を孕んだ瞳に殺される。


▽夫婦を傍観する切島

「あいつのことだ。死んだって離婚届を俺に突きつけることは出来ねえよ」

そう言って皮肉そうに笑う爆豪を見て痛々しいと思った。
嫉妬されたくて浮気をするなんて馬鹿馬鹿しいと感じた。

「そう怒るなよ、切島」

まったく馬鹿ばっかりだ。
こいつも、俺にだけ泣き顔を見せるあいつも。


▽140字SSその3

「この世に良い人とか悪い人とかいないのよ。その人がそうと信じれば、そうなるの。だからかっちゃんは私の神様なのよ」
「薄気味悪ィ宗教だな」

ああ、そう言って皮肉そうに笑うあなたは美しい。


▽目撃する上鳴

放課後、廊下をかなりの速度で走っている爆豪を見かけた。

「爆豪何してんの?」

俺の一言に奴はぴたりと足を止めた。
息ひとつ乱れていないその姿はもはやバケモノだ。

「キスしたら叩かれて逃げられたから追ってる」
「お前メンタルすげーな、どうやったらへこむわけ?」

さすがに尊敬するわ。


▽140字SSその4

このままどこかへ行ってしまいたいね。
電車のなか、かっちゃんの肩に頭を預けて言ってみた。
どこへも行けやしねぇよ。
こんな時だって彼は優しくないけれど、私は繋いだ手のひらがあれば他には何もいらないと思う。


▽140字SSその5

「好き、好き、好きだよかっちゃん」

こいつの声は、呪いで出来ている。
こんなにも心がざわめくのは呪いのせいだ。
お前がいなくなれば俺は解放されるのか?

「うるせえ、消えろモブ」

どくん。
あ。その顔は見たくない。
どうすればいいんだ。


▽企む爆豪

こいつの特技は俺の手のひらひとつでふにゃふにゃになることだ。
特技であって、個性ではない。
なぜならこいつの特技は俺相手にしか成立しないからだ。

「かっちゃんに撫でられるの気持ちいい」

そう言ってこいつは嬉しそうに手のひらを重ねてくる。
たまに思うことがあるんだ。
頭だろうが頬だろうが、俺が触ることを拒絶しないこいつは、どこに触ったって逃げはしない気がする。
腹でも、背中でも、胸、脚、体の奥の奥だって、俺が触れればたちまちふにゃふにゃになるんだ。
そんな予感がする。

「私、かっちゃんになら何されてもいいなぁ」
「…へえ」

言ったな。
今の自分は機嫌の良い顔に違いない。
お前が心の底から全部俺に委ねてもいいって思えるまで待ってやるよ。
その先は、どうなったって知らないからな。


▽薄情な愛情

「私、爆豪くんのことが好き」
「俺はお前みたいに軽々しく好きとか言う奴は嫌いなんだよ」

そう言ってやったらクラスメイトの女は笑った。

「そう、私と同じね」
「あ?」
「私、恋愛は追いかけられるより追いかける方がいいの。断然片思い派。両想いになったらつまらない。だから爆豪くんは、ずっと私を好きにならないでいてね」

女の言葉に、初めて無性にやるせなさを感じた。
好意が生まれてしまう前に潰す。他人との間に線を引く。
こいつは寂しい人間だ。


▽夏の爆豪

「かっちゃんー、暑いよー」
「んなこたわかってんだよクソが」
「アイス食べたいね」
「そうだな。お前が買ってこい」
「一緒に行こうよ。ね」
「……」
「その発想はなかった、みたいな顔されても」
「行かねえ。ただでさえ暑いってのに」
「そうだね、顔真っ赤だもんね」
「……」
「睨んでも怖くないよ」
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