「なんでそんなに、遠慮ばっかなの」眉間にシワがある蛍くんに私は笑った。「蛍くんの彼女ってだけで私はしあわせだもの」蛍くんは眉間を緩めたけれど、さっきより悲しそうな顔になった。「きみがふしあわせになるくらいなら、別れたいよ」私たちは分かり合えないのだろうか。(月島蛍)

彼女が怒鳴っていた。うるさくてうるさくて、話している内容はちっとも頭に入ってこなかったけれど、頬に落ちてくる冷たい感触だけはいやに鮮明だった。僕に馬乗りになった彼女は険しい表情で泣いていた。「(泣くほど、僕のことが好きなのか)」それはすこし、幸福かもしれない。(月島蛍)

失恋して涙も枯れた頃、研磨がやってきた。「目が真っ赤だ」部屋にずかずか上り込んで、私の目の下を研磨はそっとなでる。「うさぎは寂しくても死なないらしいけど、きみがどうかは分からないから」そう言って握ってきた手は冷たい。(孤爪研磨)

いま、俺とこいつは二人きりだ。何も罪悪感を感じることはない。たとえ人の彼女に手を出したって、こいつの体のどこにも、月島蛍という彼氏の名前は書いてないのだから。「影山、顔こわいよ」笑ってないで怖がれよ。じゃないと、俺は自分を見失いそうになる。(影山飛雄)

月島くん、耳栓してないで返事してよ。私がそう言うと彼は決まって「耳栓じゃなくてヘッドフォンなんだけど」「君みたいなのと会話したくないから音楽聴いてるんだよ」と鬱陶しそうに眉を寄せる。私は、ヘッドフォンをずらす時に学ランの袖から覗く手首が、少しつぶれた耳が、好きだ。なにより、声をかければ必ずヘッドフォンを外してこちらを向いてくれる、月島くんのことが。(月島蛍)

「いらない」私が差し出した御守は受け取られることはなかった。そんな気はしていたけれど。「なくても勝つから」蛍くんはそう言って私の頭をぽんと叩いて、それからするりと撫でた。「君が持っててよ。観客席にいてくれたらそれでいい」言い残して、彼は重い扉を押した。その向こうには歓声と熱気が待っている。(月島蛍)

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加筆したものは140字超えてるかもです
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