きみがティーカップをスプーンでかき混ぜる時の音が嫌いだった。それはいつだって、僕と話す話題がなくて困っている証拠だったから。(月島蛍)


烏の濡羽色をした、艶やかな髪が好きだった。さらさらと指通りのいい前髪を梳いていたら、目つきの悪い瞳が指の合間から覗く。「…俺は犬猫じゃねえ」「でも飛雄、撫でられると嬉しそうだよね」「……」「あ、否定しないんだ」(影山飛雄)


家に帰ると猫がショートケーキを食べていた。きれいな金色の猫だ。黙々とフォークを口に運ぶ彼は飼い猫であり、とどのつまりは私の彼氏である。猫はきらりとした瞳をこちらに向け、唇を舐めてから静かに言った。「おかえり」(月島蛍)


お前の笑顔ってまぶしいよなあ。そこが好きだよ、とあなたは笑って言った。窓際の席で金色の髪を夕陽に透かしながら明光が、それこそ私が霞むくらいに愛おしそうにはにかむから、私は言葉を忘れて見入ってしまった。私も、だなんて軽々しく言えなかった。(月島明光)


別れてからの方が会う回数が増えたよね。そう言って蛍に笑いかければ、そうかもねと彼は目を伏せた。脇にあったグラスから溶けた氷の音がする。(月島蛍)


特技:こけることのクラスメイトがだんだん放っておけなくてついつい助けてしまう月島くんのはなし

「わっ、あ、へぶっ!」「わー…イタそ…」「…!…!!」「ほらちょっと、立ちなよ。転んだついでにロッカーに額ぶつけて痛いだろうけど」「つ、つき、…痛い……」「見ればわかる。…血出てない?」「へ、へいき」「そう」(月島蛍とこけるクラスメイト1)

「誰か倒れてると思ったらまた君?ほらさっさと立つ」「…月島くんはなんで私を毎回助け起こしてくれるの?」「目の前で引くほど盛大に転ばれたら、ね」「うう、申し訳ないです…」「(なんでって、僕の方が知りたいよ)」「以後気を付けます」「出来ない約束しなくていいよ」(月島蛍とこけるクラスメイト2)


「なんで王様、全然優しくないのにあんなに優しい子を好きになっちゃったの?」目の前の月島が、酷薄な笑みを浮かべてひそりと言う。「人のこと、言えんのか」そう返すと奴は憎たらしく目を細める。このお綺麗な顔に騙された女子は数知れず。きっと、あいつも。「君が捕まえていないなら取り上げちゃうからね」(影山飛雄)


読んでいた雑誌から顔を上げると、花巻と目が合った。かちあっても逸らされないから、何か言いたいことでもあるのかと見つめ返したが黙ったままだ。一歩、近付いてみる。「キス、したいの?」驚いたように、花巻が笑った。私の額を小突く。「ちがうし。ばか」(花巻貴大)


彼女と山口が話しているのを見て嫉妬をするということがない。二人ともなんだか犬みたいで、辺りにはほのぼのとした空気が漂っているから。眺めていたら、彼女がこちらに振り向いた。「あ、月島くん」「僕猫派なんだけどな…」「え、何の話?」「俺は犬派だよツッキー!」(月島蛍)


風が強い日は嫌いじゃない。外の音がうるさくてふと目を覚ますと、暗がりのなかで真っ先に彼女の存在を感じる。窓がガタガタと鳴るたびに腕のなかの彼女が僕に身を寄せてくるから、ゆるりと背中をさすってやる。朝はまだ遠い。再び彼女のそばで眠る。(月島蛍)


「もういいかい。」楽しげな声を背後に聞くと同時に、冷たい手のひらが視界を覆った。声色と指先で誰なのかわかる。「まぁだだよ。」花巻に答えたら、うなじにふっと笑った吐息がかかり、次の瞬間には彼の犬歯が首筋の薄い肌に突き立てられた。「もう待てない。」(花巻貴大)


あなたと手を繋いだとき、私は何でも出来そうな気分になるのです。(山口忠)


いつから、ベッドの中の体温がないと眠れなくなったんだろう。(月島蛍)


この年になってお姫様抱っこをされるとは思わなかった。小さい頃にお父さんにしてもらった懐かしさとか、気恥ずかしさとか混乱とか、いろいろあったはずなのに恐怖がすべてを上回った。「下ろしてえ!!たっ高い!!」「大丈夫!落とさないからっ」(灰羽リエーフ)


明光の笑顔は降ってくるみたい。私が告げると、彼は困ったような笑顔でありがとうと言った。意味が分からないなら、訊けばいいのに。彼はすべてにおいて優しすぎるのだ。本当に私に興味がある?現実にはできないから、心の中で問い詰める。(月島明光)


「一番じゃないけれど、お前のことはすごく好きだよ」花巻が何でもないように言うから、私は笑えばいいのか泣けばいいのか分からない。(花巻貴大)


「毎日お前の作った飯が食いたい」「なにそれ」「…プロポーズだよ。わかれよ」「ずいぶんと古風な」及川さんが、こう言えば成功するって言ったんだ。口ごもりながらそう告げた飛雄が憎めなくて笑ってしまう。「騙されたんだよ」「……」「単純だなあ」「うるせえ。食うぞ。お前を。」「えっ」目が本気だ。(影山飛雄)


最初は友人の付き添いだった。及川さんかっこいいんだから!と引っ張られるままに体育館に赴き、そこで私は運命的な出会いをしてしまった。「けっ、結婚してください…」「…やだ」彼、国見英はそっぽを向いてしまったが、その後サーブミスをするほど動揺していた。(国見英)


意地悪く好きと言うことはあっても愛を囁くことはない。そんな彼に私が最近してあげることは、何かにつけて「愛してる」と言うこと。「何が目的?」ついに尋ねられたので、「蛍の分も言ってあげてるんだよ」と笑えば手のひらで口を塞がれた。顔は怒っているけれど、耳が真っ赤だよ。(月島蛍)


飛び起きようとしたら額が何かにぶつかって、ものすごく痛かった。そして目の前にはあごを押さえてうずくまる蛍がいた。状況がよくわからない。「あ、私寝てた?」「……」「なんか、大丈夫?私も痛いんだけど何があったの」「起きなければよかったのに」(月島蛍)


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加筆したものは140字超えてるかもです
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