「好きだよ」

私がそう言うたびに、及川は私を小突いた。
痛くはないが、決して優しくもない力加減で、突き放すように私の肩を押しやる。
拒絶されたのは私の方なのに、誰より拗ねた瞳をする及川を見やり、感触の残った肩をさする。

「信じてないのね」
「信じられないんだ」

及川は臆病な性格だ。
人間不信にほど近いそれは、人に愛されすぎた弊害と言ってもいい。
惜しみなく注がれてきた愛情に、何が本物なのか分からなくなって、それが自分に必要であるかどうかも見失ってしまった。
好きだと言われて安易に身を委ねられないような境遇であることは分かっている。
けれど、私は。

「好きだよ、及川」

彼の肩がびくりと揺れて、聞きたくないというように一歩後退りする。
逃げる手首をゆっくり握る。
ちゃんと聞いて。受け止めて。
何を言っても言い訳にしかならないなら、私は愛を吐き続けるしかない。
及川が苦しそうに顔を歪めて、私の肩を押す。
力なく頼りないそれでは、私を引き離せない。
勘弁してくれ。
俯いた及川が嘆く。

「好きだよ。愛してるんだよ」

及川はゆるりと首を振った。
彼にとって私の言葉が真実になる時まで、私は諦めない。
信じる前から諦めている及川を手放しで愛してやりたいと、思う。
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