「月島くんは、頭がいいけれど話していても楽しくないね」

中学生の頃に好きな女の子がいた。
彼女は聡明で素行が良く、一言で表すなら優等生タイプだった。
クラスで無意味にバカ騒ぎをするような輩とは違うという意味合いで、僕と彼女は似ていると思った。
親近感を持っていたからこそ、疑問だった。
クラスの男子に、成績が悪く教師にいつも叱られているが、やたらと友人が多く常にバカ騒ぎをしているような奴がいた。
不思議なことにそいつは同級生から評価が良く、クラスの中心人物だった。
もっと不可解なことに、僕の好きな女の子はそいつと話している時が一番楽しそうだった。
学も品もなく、うるさいだけの男の話に付き合う彼女の気が知れなかった。
よく出来た人物であり、優秀な彼女の品位を落とす真似にしか思えなかった。
ある日、僕は彼女に言ってしまった。

「よくあんなバカっぽい奴と付き合ってられるね」

僕のなけなしの嫉妬だった。
彼女は驚いたようにまばたきを繰り返し、それから急に大人びた表情になった。
その表情は僕が知る限りで一番大人っぽい綺麗な顔だったが、浮ついた感情は一切持てなかった。
彼女が憐れむような、聞き分けのない子供を見るような目をしていたからだ。

「月島くんは、頭がいいけれど話していても楽しくないね」

きっと、僕は彼女に言われたことがショックだったんだと思う。
だって、今でも覚えてる。





高校生になった今、あの頃よりもっと好きな女の子がいた。
中学の時の反動なのか何なのか、明らかに不真面目な部類の女子だった。
不良ではないが、面倒くさがりで勉強が嫌いでおしとやかさの欠片もない。
それでも僕なりに好ましいと思う長所をいくつも持っていて、きちんと理由があって好きになった相手だった。
しかし、彼女は日向のことが好きだった。
そのことを知った瞬間から焦った。
またしても彼女が自分の及ばぬところで楽しそうに笑うところが想像できて、毎日のように日向の話をする彼女に言ってしまった。

「あんな奴のどこがいいの?」

彼女は、ぴたりと言葉を失った。
そうして露骨に嫌悪の表情を浮かべた。
当たり前だ。
だって彼女は毎日、日向の好きなところを喋っていた。
その話の聞き役でありながら、わざわざ尋ねた僕は喧嘩を売っているようにしか見えなかったんだろう。
僕も彼女も、軽蔑や嘲笑という感情を当たり前に知っている年齢だった。
だから今回は、以前より容赦がなかった。
言葉より、表情だ。
その表情は僕が知る限りで一番醜い負の感情を詰め込んだ顔だったが、浮かんだのは、こんなにも好きなのにという報われない思いだった。

「そういうことを考えなくて、本人に尋ねたりしないところかな」

「月島って、本当に嫌な奴だね」

僕は何度間違えれば気が済むんだ。
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