知っている。
シャチが私の気持ちに応じたのは、大好きな先輩に振られてしまったからだ。
なんだか、ここ数日のシャチの笑い方は気持ち悪い。
別に、にやけているだとかわざとらしいだとか、そういうことはない。
けれど、やはり数週間前の彼の笑顔とは少し違っているのだ。
毎日先輩の名前を口にして、私にいろんなことをきらきらした瞳で語っていたあの頃とは。
そう、あの頃が無邪気な子供のようだと言うならば、今は枯れた大人のよう。
本人に言ったら、シャチは怒るかな。それとも、やっぱり力なく笑うだけだろうか。

「お前何のパン食ってんの」
「ハムカツサンド」
「…一口」
「あげない。絶対」

机を挟んでの食事中、すげなく返せば「冷たいやつだよなぁ」と、シャチは言う。
声そのものは不満そうに聞こえても、その表情がへらへらしているから私は胃のあたりがムカムカしてくる。
食欲がなくなってくる。
好物のハムカツサンドの味があまりしない。
もはやシャチとの食事は作業だ。
噛んで、飲み込む。
味気ない繰り返し。

「次の授業なんだっけ」
「シャチの嫌いな歴史」
「まじかー、ねよねよ」
「怒られても知らない」

お前って本当に冷たいなぁ。
また笑って言うシャチの足を踏んづけてやろうと思って、やめた。
冷たい、だなんてあんたにだけは言われたくない。
さっきから校庭ばっかり見て、感覚だけで会話をして。
次の授業が体育で外に出ている先輩をずっと目で追っているくせに。
いよいよ、食べ物の味がなくなった。
目の前にはシャチ。
あんなに好きで、ずっとそばにいたいと願った人。
それなのに私の気持ちは何ひとつ満たされない。
付き合うって、なんだっけ。
喉に引っかかるパンを飲み物で押し込んだ。


救いようがない
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