日当たり良好 / 高尾


うららかな休日。
久しぶりに部活も休みだったし、家でのんびり借りてきたDVD見ようぜって話をしたのは金曜日の夜。
彼女は快く了承したはず、だったのだけれどどうも機嫌が悪いように見える。
今もほら、隣でクッションを抱える彼女は画面を見つめながらしかめっ面だ。
オレは何か気に障ることをしたんじゃないかと心配になる。

「名前ー」
「……」

映画の邪魔にならないように控えめの音量で呼んだけれど返事はなかった。
おいおい、シカトとかほんとやべえって。
名前はじとっとした目で画面を睨んでいる。
およそ内容に集中している顔には見えない。
口はへの字に曲げられて、片手が持て余したようにクッションを一定間隔で殴っている。
…なんで殴ってんだろう。
その辺でやめてあげて、うちのひよこちゃんクッションがかわいそうだから。

「あー」
「な、なに?」
「ダメだもう、限界」

彼女が急に大きな声を出したから思わず肩が跳ねてしまった。
何がダメ?何の限界?
今日はいい天気で、彼女もやってきた時は元気そうで、何一つ悪いことはなかったはずなのに。
不安な気持ちで言葉を待っていると、言葉より先に彼女が寄りかかってきた。
腕の中の体温はやけにあったかくて、もしかしてという思いが湧いた。

「ごめん高尾」
「え、えっ?」
「おやすみ」
「ちょ、待てって!まだ寝ないで!」

名残惜しい気持ちがありながら、なんとか彼女の肩に手を置く。
軽く引き離すと、もう目を閉じかけている名前の姿があった。

「もしかして、…ずっと眠かったわけ?」
「そうだよー、なんとか堪えてたけど限界。この部屋日当たり良くて、もう眠気が…」
「ああ…そゆこと…」

冬の陽光は先ほどから名前の背中をあっためるように窓から差し込んでいる。
これではさぞ眠気を誘われたことだろう。
目を細めていたのもクッションを叩いていたのも気を紛らわせて意識を保つためだったのか、とようやく納得した。

「寝たかったんなら言ってくれりゃいいのに」
「だって久しぶりに高尾と一緒だから」
「きゅん。じゃなくて!嬉しいけど!」
「もう寝かせて」
「あー待った待った、あと一つだけ」

思いがけない一言を聞けたのは素直に嬉しかった。
しかし原因を聞かないことには彼女を寝かせるわけにいかないのだ。

「なんでそんなに眠いんだよ?昨日夜更かしした?」

オレの一言に、眠たそうだった名前の瞳がぱっちりと開いた。
次いでみるみるうちに赤く染まった頬に、つられて瞬きを繰り返した。
オレに肩を掴まれたまま、名前は目を泳がせて言った。

「別に。夜更かししたくてしたんじゃなくて」
「うん」
「高尾の家、ずいぶん長いこと来てなかったから。緊張して昨晩寝付けなかった…だけ」

はい、今度はオレが赤面する番でした。
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