「ペンギン、聞いて聞いて」
「なんだ」
「今朝の話なんだけどさー」

シャチが机にだらしなく乗り出して、明るい声を出した。
いつもおれが話を聞かないからだろうか、三人で昼飯を食べているというのに奴が話題を振るのは聞き上手なペンギンであることが多い。
まあ、気を遣わなくていい奴らと静かに飯が食えるなら何だっていい。
紙パックの中身をストローで吸い上げると安っぽい音が鳴る。

「あいつにポッキーあーんってやったら、すっげえ恥ずかしがりながらだけど食ってくれたの!相変わらずかーわいいよなぁ」
「あいつって?」
「あいつだよ。おれがちょっかい出す女の子なんて一人しかいねーじゃん」

シャチがにやけながら話す内容に、おれとペンギンの食事を進める手が止まる。
あいつとは、おれの二つ下でありペンギンの一つ下であり、シャチと同学年である一人の女子生徒のことである。
そういや、今日は朝から女どもがやたらと騒いでいた。
そういうイベント事に乗っかるわけではないが、おれらの机の上にもプリッツの箱がある。
やはりシャチが持ってきたものだ。

「意外だな」
「だろ?普段のつれなさとのギャップたまんねえ!」
「…へえ」

表面上は笑っているが、嫉妬が隠しきれていないぞペンギン。
シャチは誰から見ても明らかだが、ペンギンもなかなか分かりやすい奴で、あいつに好意を抱いているのがだだ漏れである。
貧相な食事を早々に済ませてさりげなく立ち上がると、ペンギンが腕をがっしりと掴んできた。

「…おい、手を離せペンギン」
「抜け駆けは許しませんよ」
「おれは便所に行くだけだ」
「ならその手に握りしめているプリッツは置いていってください」

さすがにバレたか。
悟られたということは、こいつも似た思考回路をしているということだ。
何が起きたのかと呆けた顔をしているシャチは放っておくとして、腕を振ってみたがペンギンの手は離れない。

「おれがいつどこで誰にちょっかい出そうが勝手だろ」
「相手があいつなら話は別です」
「…おれはお前より先輩だぞ」
「恋愛においては対等です」

生意気な口を利きやがる。
静かに睨み合うおれたちを前に、ようやく状況整理ができたらしいシャチが意外そうに口を開いた。

「え?なに、二人ともあいつのこと好きだったんですか。あ、おれも好きなんですけどねー」
「…鈍いにも程があるぞ。シャチ」
「後半に関しては分かりきってたことじゃねェか」
「あ、そうっすか?やべーハズい」

話し相手におれも含まれているからか、言葉に敬語が混じる。
呆れかえった気持ちになったのはペンギンも同じだったようで、二人揃って頭を掻くシャチを見やった。
「でも、」と言葉を区切ったシャチはふいに声を低くした。

「たぶん二人が行ってもあいつは応じないと思いますよー。あいつ、恋人以外にはそういうのきっぱり断るらしいんで」
「「は?」」

こんなところまで揃わなくていいと思いつつ、おれとペンギンの声は重なっていた。
今、恋人と言ったのか。こいつは。
何でもないようにメロンパンをかじるシャチに、ペンギンが問いかける。

「…何だって?」
「だからー。おれがあいつの彼氏なんだってば」
「付き合ってるってことか?」
「何度も言わせんなよもー。そうそう付き合ってるの」

思わずペンギンと顔を見合わせてしまった。
まさかの告白に、自分の表情が引きつるのを感じる。

「…そんな素振りちっともなかっただろ」
「だってあいつ、学校で会うと恥ずかしがるんですもん」

至って幸せそうに笑みを向けてくるシャチに、おれたちは返す言葉がなかった。
普段からあいつが可愛いだの好きだのとよくぼやいていた奴だが、まさかそれが相思相愛だとは思っていなかった。
そのとき、シャチのスマホから流行り曲の着メロが鳴り響いた。
いつもならマナーモードにしろと叱るはずのペンギンも口を閉じたままだった。
機嫌良く画面を眺めていたシャチが、「お先失礼しまーすっ」と軽やかに教室を出て行った。
誰の元へ向かったのかは、さすがに察しがついた。

「…ペンギン。プリッツ食べるか?」
「いりませんよ、そんな涙でしょっぱいやつ」
「ポッキーの日だかプリッツの日だか知らねェがクソくらえだ」
「リア充爆発しろ」


シャチくん大勝利
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