「おじさん。こんにちは」
「ああ、君か」
「知ってますか?マックのある店舗がホームレスの方お断りの貼り紙をしたらしいって」
「へえ。…それをどうして俺に?」
「欲しいものがあったら代わりに買ってきますよ」
「こらこら」
「ナゲットとか好きそうですよね」
「確かに好きだったけどね」
「今度買ってきます」
「いや、いいよ。気持ちだけで十分だ」
「女子高生に奢られるのはプライドが許しませんか」
「だからそうじゃなくて…」


「何してるんだい」
「あ、おじさん。見てください、この野良猫なつっこいですよ」
「ウウ―……」
「大丈夫だよ。おじさんはいい人だから…あ、逃げた」
「はは、俺は嫌われてるみたいだ」
「なんで笑ってるんですか」
「平気だからだよ。憎まれ役には慣れっこさ」
「おじさんみたいな大人にはなりたくないです」
「ああ。ならない方がいい」
「(痛みに鈍感な人は見ていて嫌だ)」
「(この子は俺と住む世界が違うから)」


「おじさん。これあげます」
「…ゼリー飲料?」
「この前固形物は食べられないと言っていたので」
「ありがとう。もらっておくよ」
「(とか言って、この人は食べないんだろうなぁ)」
「どうしたの?」
「何でもありません」
「でも、腕をつねられると痛いよ」
「………」
「痛い痛い痛い」


「今日はカメラを持ってきました」
「結構本格的なやつだね」
「はい、おじさんピース」
「俺なんか撮っても楽しくないだろう」
「だって、姿を捉えておかないとおじさんはふらっとどこかにいなくなりそうで」
「……」
「私の知らない場所で行き倒れていそうで心配です」
「大丈夫だよ。野垂れ死ぬほどヤワじゃないさ」
「あなたが言うと誰より説得力がないですね」
「辛辣だなぁ」
「はいピース」
「だからしないって。…ああ、構え方が違うな。もしかして初心者?」
「はい」
「一応趣味で写真はやってたからね。おいで、教えてあげよう」
「はい」


「え、おじさんってホームレスじゃないんですか?」
「そんな真顔で…傷付くなぁ。前にも否定したじゃないか」
「その身なりで?公園に入り浸ってるのに?」
「真顔をやめなさい」
「嘘はいけませんよ」
「本当だよ」
「食べ物やお金が欲しいんじゃないなら、何でもない女子高生の私と話す理由なんてないと思いますけど」
「理由ならあるよ。君と話すのは楽しいからね」
「…へえ」
「(今の俺が平穏と日常を感じられるとすれば、君と話してる時くらいだ)」



『―――午後6時頃、冬木市で女性の遺体が発見されました。女性は市内の高校に通う××××さん17歳と判明し、警察は強盗殺人の疑いがあるとして捜査を―――』



「まだ若かったのにねえ」

「噂じゃ先月の通り魔と同一犯じゃないかって」

「いい子だったのに」

「でも最近、行き先を言わずによく出掛けてたって」

「その子の素行にも問題があったんじゃないかしら」


人は、勝手なことばかり言っていた。
街頭のテレビ画面で見かけたニュースで、あの子の写真が映っていた。
あまり写真写りが良くないね、と言ったらきっと本人は怒るだろう。
画面の中の彼女より、直接会って話した彼女の方がずっときれいで華やかだった。
あの子はまだ学生で、未来ある若者で、俺なんかと関わっていたら貴重な時間を無駄にすると思っていた。
だけど。
余命を一カ月だと言い渡された自分より先に、あまりにも呆気なく死んでしまうなんて。
俺は桜のために間桐へ聖杯を持ち帰ると決めた。
けれど、もし、俺にも願いを叶える権利があって桜が既に解放されていたならば、君が不幸に死ぬような世界でなくなればいいと願ったかもしれないんだ。


雁夜は考える、そして理不尽な世の中に歯噛みする
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