「抓住。つかまえたアル」
「えっ、なに?ちょっと」

腕いっぱいのお菓子は自分の机に一旦置いてきて、仲のいい子たちにでもお菓子をもらいに行こうかと廊下に出たところで、勢いよく肩を引き寄せられた。
それは思いやりとか愛情とは程遠く、片腕一つで私の身体まるごとを誘拐のごとく引きずるような形だ。
私では抵抗の適わない力加減に、なんとか顔を上げると、にんまりと笑う劉くんがいた。
一言目から予想はしていたが、これは。

「ちょうどいいところにいたアル。少し付き合うがよろし」
「私どこに連れ去られるの?」
「モアラのところ」
「は?」
「あなたもお菓子たかりにいくね、一起去」

一緒に行こう、という意味なのだろうか。
そう会話を交わす間にも私はずるずると引きずられつつある。
お誘いにしては強引な、かなり強制的なものである。
やはり誘拐という表現は間違っていなかったらしく、周りの生徒たちは捕まえられた私を不思議そうに見ていた。

「モアラ…?」
「ああ、主将のことアルよ」
「キャプテンのことをあだ名で呼ぶの?仲いいね。コアラみたいな?」
「…思い当たらないアルか。知らぬが仏」
「え?」

彼と話しているといつものことなのだが、どうしても聞き返すことが多くなる。
独特の感性で生きているような、文化の違いを知らされるような。
ところで、と私は話を区切った。

「なんで私を連れてくのさ」
「モアラには女子の一人や二人連れてった方が大量獲得確実アル」
「いやだから、なんで私」
「それは…あなた相手だと巻き込んだ罪悪感湧かないからアルね」

ひどい認識だ、と少しばかり落胆した。
せめて気兼ねしないとか言ってくれたらまだ嬉しいものを。
気を遣わないで済む先輩と思われている、ということにしておこう。

「着いたアルよ」
「あ、うん」

いつの間にか岡村くんのクラスの前に来ていて、大きな腕から自由になった身で今日はあちこち放浪するなぁ、なんて思った。
急かされて教室に入ると、(当たり前だけど)私より先に劉くんが目についたらしく、岡村くんが苦い顔をした。

「菓子よこせアル、ゴリラ」
「ゴ…、こら。失礼でしょうが」

トリックオアトリートどころか、手順を飛ばして最早カツアゲのような言葉と暴言をたしなめるが、彼はいたずらっ子よろしく舌をべー、と出すばかりである。
怒っているのでは、と思い岡村くんを振り返る。
しかし彼の憂いはその点にはないらしい。
苦い表情を保ったまま、言いにくそうに口を開く。

「タイミングが悪いぞ、劉」
「…まさか」
「紫原と氷室が根こそぎ持って行った後じゃ」
「ち、使えねーアル」
「劉くん、お口が悪い」
「不好意思〜」

本当に謝る気があるのか、言語を変えられると分からないから始末が悪い。
疑いの意を込めてじっと見上げると、「まあまあ」とでも言うように頭をぽんぽんと撫でられた。
彼でもこういうことをするのか、と意識が逸れて流されそうになる。
反対に主旨を忘れていないらしい劉くんはきっぱりと言いきった。

「今残ってる分だけでもよこせアル」
「しょうがない…ほれ、持ってかんかい」
「しょぼっ」
「なんじゃと!」
「あ、そうだ。二人にも福井のチョコ分けてあげるよ」

急に知った名前が出たせいか、彼らは言い争うのをやめて私を見た。
ポケットに入れたままだったいくつかを机の上に置き、ちょうど半分で分けてそれぞれが居る方へ寄せる。

「お前さんが異様に優しく見えるわい…」
「おお、ゴリラが情けかけられてほだされてるアル」
「いつまでもそんなこと言う悪い子にはあげないよー」
「悪かったアル。センパイ、ちょーだい」

手のひらを返したように後輩らしく懐っこく振る舞ってみせる劉くんにため息が出る。
わずかばかりの苺チョコを大事そうに仕舞う岡村くんと、その場でもぐもぐと食べてしまう彼との違いには笑ってしまったけれど。
その後、劉くんにまたもや連れられて荒木先生のところにも行ったけれど、逆に全て没収されたのは今日一日の彼に対する因果応報だと思った。

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その3。ちょっとグダった上に遅刻ですが陽泉ハロウィン完結です。
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