だるいから休みの日は外に出ない。
必然とどこにも連れて行ってやることはないが、名前は文句を言いながらも真に不満そうにはしていなかった。
オレとしては不満だったら別れてくれりゃいいし、別れたところで何の不都合もない。
そう思ってはいるのだが、へらへら笑うバカな名前はどうやらめげるということを知らない生物らしかった。

「花宮、遊んでよー」

休日に好きな読書に没頭しているオレの部屋へ押しかけ、ひっきりなしに肩を揺らしてくるバカは言う。
遊ぶって何だよ、小学生か。
放っておけばその内に飽きて帰ると思ったのは間違いだったようで、絶え間なく揺れる視界のせいでまったく集中できない。
まともに相手をする気も起きず、近くにあったスクールバッグから一冊の本を取り出し、名前に差し出した。

「これでも読んでろ」
「…なんで教科書?」
「オレと違ってお前がバカだからだろ」
「確かに花宮は私と違って頭いいけどさ、そういうことじゃなくて!相手してって言ってるの」

オレが鼻で笑った台詞をそのまま繰り返し、気にしていない様子の名前は腕を掴んで喧しく喚く。
その頭には矜持や自尊心といった言葉がインプットされていないらしい。
苛立ちをため息にして吐き出し、名前を置いて一度部屋を出た。
ストレスと読書のお供にとキッチンでコーヒーを淹れる。もちろんオレの分だけを。
部屋に戻ると、名前はまだいた。
帰っていれば良かったのに。

「あ、花宮」
「なに勝手に読んでんだ、返せ」
「ケチ。花宮がどんな本読んでるか気になっただけなのに」

オレが先ほどまで読み進めていた本をその手から取り返し、元の位置に座り直す。
そこでようやくオレが持ってきたカップに気付いたらしく、名前が声を上げる。

「コーヒーだ。これ作ってたの?」
「お前の分はないからな。大人しくしてるか、じゃなかったら帰れ」
「あっ、そうだよ。私の分は?忘れたの?」
「……」

こうも悪意に鈍い人間がいるとは思いたくなくて、黙って目を逸らす。
わざわざ視線を合わせるように寄ってきて、名前は繰り返す。

「ねえ私の分もコーヒー作ってよー、ねえねえ花宮ー」
「ちっ…うるせーなあ。自分で作ればいいだろ」
「花宮のケチ眉毛」
「…聞こえてんぞ名前ちゃーん」
「ぎゃあ!来たー!こわ!」

立ち上がると、名前はけたけた笑いながらオレから離れた。
逃がすものかと、狭い部屋の中でどたばたと名前を追い回す。
バカがオレの部屋で嬉しそうに逃げ回っているという非日常的空間に頭がくらくらしたが、もう気にしないことにした。
今日こそはとっ捕まえて、オレと付き合ったことを後悔させてやる。
それで別れたくなればいい。


さて、自分から別れを切り出さないのは何故でしょう
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