「あ、センパイだー。お菓子あげる」
「いっぱいあるので、どうぞ」

出会い頭に、まだ何も言っていないのに後輩二人からドサドサとお菓子を渡される。
この二人ならあちこちを練り歩いて沢山持っていそうだから、と捜していたのは確かだけれど、そんなに物欲しそうに見えたのだろうか。
予想通り紫原くんに保護者のごとく付き添う形で巡っていたらしく、しかしちゃっかり氷室くんも山ほどのお菓子を抱えている。
バレンタインより渡しやすいと、数々の女子が便乗したのだろう。

「ちょっと、もう持てないよ」
「あらら。そー?せっかくあげてんのにー」
「アツシは今日機嫌がいいから、もらうなら今のうちですよ」

前が見えないくらい腕の中にお菓子を積まれる前に何とか言うと、「これっぽっちでいいの?」という風に紫原くんが声を上げた。
規格外な彼からすれば少ないのかもしれないが、私には十分すぎる。
そもそもお菓子を入れるための大きな袋を用意してきているらしい彼らとは準備が違う。
よいしょ、と体勢を立て直しながら思わずぼやいた。

「今日は先手を打たれてばっかりね」
「なんで不満そうなんですか?」
「こういうのはさ、相手が用意してないところを困らせるのが楽しいんじゃない」
「意地悪ですね」
「センパイ文句多いー」
「文句じゃないよ、ただあっさりしすぎなんだもの」

沢山もらって困ることはない。
けれどハロウィンお決まりの台詞すら言わせてもらえないあたり、彼らの方がこの行事では手慣れている。
無類のお菓子好きとアメリカ帰国子女、なるほどハロウィン上級者なのも頷ける。

「あ、それ」
「どれ?」
「福ちんが最後までくれなかったやつだー」

指差された先には、他のお菓子を支える土台のように私の腕が抱えている袋があった。
例の、徳用苺チョコだ。
一応福井が私のためにと用意してくれたものなので、さり気なく彼らから遠ざけるようにすると二人が小さく笑った。

「警戒しなくても、狙ってませんよ」
「既にオレら福ちんと一悶着あったしー」
「なんだか一生懸命な様子だったので、手を引きました」

後輩二人、特に氷室くんから微笑ましそうに言われていることを、福井本人は知る由もないだろう。
この場にいたらますます微妙な顔をしていただろうことは想像に難くない。
先ほどの、私の言葉に拗ねてしまった福井を思い出した。

「二人とも、三年の廊下に居るってことは」
「はい、主将のところにも」
「行ってきたよー」
「福井のとこにはもっと早くに行ったみたいなのに、随分のんびりしてたんだね」
「それは、ほらー。オレ後輩として可愛がられてるから」
「アツシが歩いてると、どんな先輩でも気付いてお菓子をくれるんですよ」

本気なのか冗談なのか、しれっと言い放つ紫原くんに氷室くんが重ねて笑う。
普段と変わらない様子にも見えるけれど、二人はとても今日という行事を楽しんでいそうだ。
それならば、と私はお菓子の山から徳用袋を引っ張り出した。

「それじゃあ、可愛い後輩たちにこれを分けてあげよう」
「え、いいの?やったー」
「先輩、いいんですか?」
「福井自身が多かったら分けろ、みたいなこと言ってたし。君ら相手なら別に許してくれると思うよ」
「うんうん、センパイが太らないようにもらったげるー」
「こらアツシ。レディーに何てこと言うんだ」

その大きな手のひらに苺チョコを乗せると、紫原くんが嬉しそうに寄ってきた。
腕を回されて、ひっつかれる。

「センパイ好きー」
「全部はあげないよ」
「ちぇー」

誰もがこんな風にふざけてはしゃぎ、心を躍らせて今日という日を楽しんでいる。
ならば、そこに紛れて童心にかえってみようか。
小さな子供みたいな彼らを見習って、ね。

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その2。
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