転がり込んできた、まさにそんな表現がぴったりの様子で、家が隣のこいつがなぜかオレの家にやってきた。

「おい」
「うん」
「うんじゃねーよなんでウチきてんの」
「いま家に誰もいなくて、鍵開ける手間すら億劫で」

それきり黙り込んでしまう相手に吐き出しかけたため息は、喉の奥に押し込めた。
別に煩わしいわけじゃないし、月に一度はこいつが普段と比べて不気味なほど大人しくなる理由を知らない年齢ではない。
わざわざ体調を尋ねるような野暮な真似はすまいと心に決めていたのだが、靴を脱いだきり玄関先で座り込んだまま動かない相手を放っておけるはずもなく。
少しためらってから、できるだけそっと肩をつかむ。

「しんどいんだろ。上がって楽な姿勢にでもなれば」
「うん」
「だから、うんじゃねーって…」
「もう少し落ち着いたら行く」

背けている顔へ目を向けると、浅い呼吸を苦しげに何度も繰り返しているのがわかった。
もどかしい、そう感じてからのオレの行動は潔く、彼女の膝裏と背中に腕を回して持ち上げた。
抱き上げられてもじっとしたままでいるので異論はないと勝手に判断して、自室に向けて階段を上がった。
この調子なら、ベッドに寝かせてやるのが一番だろう。
オレの胸元へ額を押しつけてきたこいつが、ぼそぼそと小さく言った。

「ごめん宮地」
「なに謝ってんだよ轢くぞ」
「それはもうちょっと元気なときにして」
「あーはいはい、オレが悪かったです」

冗談として受け取る気力すらないらしく、見下ろした瞳のふちには涙が溜まっていた。
柄にもなく、不調のせいで気が沈んでいるのだろうか。
その苦痛は計り知れないが、こうも元気がないと張り合いがない。
痛みに気が向いているらしい小さな体がいじらしく、そのつむじに軽くキスを落とす。
こんなことで気がまぎれるはずもないし、そもそもこの腹痛にそれどころではないらしい彼女と、わざとそんな気付かれにくい機会を狙う自分を内心で軽く笑った。
真っ先に頼られることに、本当は悪い気がしていないというのに。
自分に丸ごと身を預けてしまう無防備さに関しては、しばらくして元気を取り戻してから説教してやろう。
それまでは、なけなしの優しさをくれてやる。
だからさっさと良くなれよ、バカ。


自分じゃわからないことだから、せめて
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