廊下で女の先輩とぶつかった。

「スンマッセン!大丈夫ですか?」

彼女の手から落ちた文庫本をあわてて拾い上げる。
ページに折り目などがついていないことを確認してから、学ランの袖で拭くようにして表面を払う。
一生懸命になっていると、そばで笑い声がした。

「ふ、…すみません。そんなに必死にならなくてもいいです。汚れてないですから」
「(…わ、)」

すごい美人さんが目の前にいてびっくりした。
オレとそんなに変わらない高い身長はすらりと姿勢良く伸びて、長い睫毛が眼鏡の奥で揺れる。
絹のような黒髪は重たく見えずサラサラと揺れて、文学少女という表現が似つかわしい容姿だ。
はー、と感嘆のようなため息を吐きつつ彼女へ本を手渡した。
ありがとうございます、と言われて気付いたが声も涼やかで綺麗だ。
敬語使うんだなぁ、オレ後輩なのに。
何気なく先輩の手元へ視線をやって、一瞬思考が停止した。
…んん?

「…先輩、その手に持ってるのって」

こけしだ。
どう見ても日本の有名な土産品であるこけしが妙な顔つきで笑っている。
その手にあるものを指摘すると、先輩はちょっと気まずそうにした。

「こ、これは」
「はい」
「その…今日のラッキーアイテムで」
「…はいい?」



「ってことがあったわけよ。すごくね?」

机を挟んで黙々と弁当を食べ進める緑間は相変わらず冷めていた。
つれねーなぁ、少しは乗れよ。

「オレ、真ちゃん以外のおは朝信者はじめて見たわ!いやー、それにしても美人な先輩だったなー」
「そうだろうな」
「ん、今のどっちに納得したわけ?もしかして知ってる人だったり?」
「姉なのだよ」
「は?」
「聞いた限りでは、それはオレの姉に間違いない」

はい?
本日二回目の頓狂な声を上げたのち、オレは思わず緑間を指差して叫んでいた。

「うっそだろ!?か、髪の色緑じゃなかったぞ!!」
「お前は一体何で人を判断しているのだよ…」
「いやだって、えー!うっわー!」
「やかましい。姉は染めているだけだ」
「緑間家の遺伝子すげー…」
「悪目立ちすると言ってな。オレも同じ色なんだがな…」
「…真ちゃん、お姉さん大好きなんだね」
「何を言う。アホらしい」
「いやモロバレだわ」



「今日、学校で親切な男の子に本を拾ってもらったの。真太郎と同じ一年生かしら」
「姉さん…あの男だけはやめておくのだよ…」
「え?」

緑間姉は若干の男性恐怖症。不審がられるから緑髪もラッキーアイテムもやめていたけど災難が続いたからおは朝だけは続けてる、みたいな
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