「これ何アルか」 「ん?」 私の携帯をいじくっていた劉が不意に声を上げた。 勝手に見られたにも関わらず好きにさせておいたというのに、どこか憮然とした声音につい彼の机へ身を乗り出す。 「ここ」 彼が大きな手のひらでやりにくそうに指差すのは、電話帳の彼のページ、さらに言えば名前のフリガナ欄だった。 「あー」 「リュウエライて、ふざけてるアルか」 登録した時以来なのだろう。 「劉」と「偉い」で入力したため、フリガナの欄には奇妙な言葉が並んでいた。 仕方ないことだが、彼の名前はそのままの音では漢字変換ができない。 かといって、今まで気付かず放置してしまったことには悪い気がした。 「ごめん、いま直す」 「リュウ・ウェイ」 「うん、うん。わかってるって」 独特な発音の声が責めるみたいに言う。 片手で携帯をいじくりつつ、もう片方で随分と高い位置の劉の頭を撫でてやった。 座っていてもこれだけ腕が疲れるのだ、立っていなくて良かった。 そもそも手が届かなくなってしまう。 しばらくして、ちらっと見ると劉は少し目を細めていた。 しかしすぐにはっとした様子で険のある眼差しに戻り、私を見てくる。 「劉、えらいえらーい」 「そんなので騙されないアルよ」 「いい子いい子、可愛いね」 「うるせーアル」 拗ねたように机に伏せた頭はすっかり撫でやすくなり、両手でわしゃわしゃと細い髪をかき混ぜても何も言ってこない。 怒ったかなぁ、と手を離せば「もっと」と小さな声が組んだ腕の隙間から聞こえてきた。 笑った声が聞こえたのか、つんと口を尖らせた劉が顔を上げて、それから私の手を引き寄せた。 --------------------- 180cm以上の男性は慣れてないから撫でると喜ぶという話を聞いて。 |