「ただいまー」 「おう、おかえり」 出迎えた声が柔らかいなと思ったら、私が持っているものに期待しているらしかった。 手のひらがコンビニの袋をさらっていったのを目で追うと、宮地ががさがさと中身を漁っている。 「お前なんでアイスとビーフジャーキーを一緒に買ってんだよ。後半おっさんか」 「ジャーキーは宮地のだよ。冷蔵庫に残ってたチューハイのつまみです」 「んじゃ、アイスもらうな」 「待て待て」 私が買うのにずいぶんと悩んだ代物を手に、さっさと暖かいリビングへ退散しようとする宮地を引き止める。 服の裾をつかんだ手はぺしっと振り払われて、大きな手のひらが乱暴に私の髪をかき混ぜた。 「よしよし、お前は手洗ってうがいしてからゆっくりこいよ」 「それ、私のハーゲンダッツ…」 「おう、有り難くいただくわ」 「じゃなくて!」 宮地の笑顔がきらきらしてるけれど、その甘い表情に騙されてはいけない。 私が着替えだの何だのしているうちに宮地がそれを食べてしまうだろうことは明らかで、じとりと送った視線に彼はふんと笑った。 くるりと指先でアイスのカップを回し、書かれた文字を眺めている。 「そんなに食われたくないのか。なんで二つ買ってこなかったんだよ」 「…高いし。それ420円もするの」 「なら、尚更オレがもらってやる。学生の財布には優しくしとけ」 「私も学生です、よっ」 「おっと、あぶねー」 隙を見て手を伸ばしたけれど、惜しいとすら思えない反射神経で宮地が腕を持ち上げた。 どう足掻いても届かない位置にあるアイスをまたくるりと回して、宮地が得意気に笑む。 その顔、いじわるなのにかっこよくてやだなぁ。 恨めしくなって至近距離でじろっと睨みつけたけれど、平気な顔して見下ろしてくる。 「返して」 「やーだね」 「じゃあ宮地には肉まんあげないからいい」 「は?おい、買ってきてんなら早く言えよ冷めるだろーが」 そう言葉にするまで、私が持っているもう一つの袋に気付いていなかったらしい。 アイスと一緒だと溶けるから別の袋にしてもらっていたのだ。 彼が身を乗り出すより早く、さっと飛び退いた私を見て宮地が舌打ちをひとつ。 そんなに食べたいのか、肉まん。 「…よこせ」 「どうしよっかなー」 「おい」 「じゃあアイスと交換ね」 宮地は一瞬だけ逡巡したあと、渋々といった様子でカップを差し出してきた。 珍しく勝った、と嬉しくなって油断したのがいけなかった。 私がひょいと何気なく出した腕をぐっとつかまれてすぐに、視界がぐるりと回った。 軽々と肩に担がれている、と悟ったのは浮遊感と不慣れな目線の高さからだった。 声も出せないまま何とか視線を向けると、宮地がにこーと笑っている。 「あんま調子乗んなよ?よこせっつったろーが」 「…どうぞ」 「はい没収ー」 「靴、脱がせてよっ」 「あ?はいはいお疲れさん」 ばたばたと暴れてみるも、意に介さない宮地が適当にブーツを脱がしにかかるから、変な声を出しそうになった。 無造作に放られたそれが玄関に落ちる。 「自分でやる!」 「めんどくせぇ。早く食おうぜ」 「手も洗ってないのに、」 「腹減ったし後でよくね」 ただしオレには風邪うつすなよ、と矛盾だらけの発言をしながら歩いていって、宮地はリビングへ通じる扉を開けた。 暖かい空気がふわりと流れてくる。 宮地の肩にしがみつきながら緩くため息を吐いた。 勝手なことばかり言う割に、一緒に食べたがる彼は寂しがりなのか何なのか。 仕方ないんだから、と諦めているあたり私も彼に甘い。 袋を覗き込んだ宮地が、やたらと深刻な声で言った。 「うわ、なんでピザまん買ってねーんだよ。冬はチーズが至高だろ」 「文句ばっかり言ってさ。宮地、それ食べたら自分のうち帰りなよ」 「オレが待ってたら嬉しいくせに」 「まあ、うん」 「…否定しろよ」 「そっちこそ本気で照れるのやめて」 「アイス半分こな」 「いいよ」 お互いの家を行き来するのが当たり前な大学生カップル。 いっそ同棲したいけど言い出せないから入り浸る宮地。 |